ショーウィンドウの向こう側に光る指輪を九瑠璃が見つめ続けて数分が経過した。「あのさ、」「まだ」傍らに立つ青葉が声をかけるもぴたりと立ち止まったままその場を動こうとしない。青葉自身も指輪へと視線を向ける。豪華ではないが上品で、嵌め込まれた宝石細工の色合いが可愛らしいデザインだった。欲しいの、と聞けばぼうっと見蕩れているまま無言でこくりと首を縦に振られる。ちらりと値段を見ると中々に高い。「それ、買うつもりなの」「ううん」「じゃあ、なんで見てるの」そう聞けば、欲しいから、とシンプルな答えが返される。よく分からない。買いもしないのにどうしてそんなに執着するのか。
「男のひとに、買ってほしいの」こういうものは、と言って九瑠璃は漸く指輪から目を離した。おそらく恋人にだろうな。高いし。そう考えているといつの間にやら九瑠璃は青葉の傍に近寄り、目を覗き込んでいた。青葉が何か反応する間もなく彼女の口が動く。
「青葉君が買ってくれるものなら、何だっていいよ」
そして少しの沈黙。
「…へ?あ、ああ……じゃ、キャラメルマキアートで…」しどろもどろになりながらそう返すと、ありがとう、と言ってにこりと彼女は微笑んだ。心臓に悪いなあ、と青葉は思った。



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