2604(67) | ナノ

夜になって、おれは布団に包まる。夏用から冬用に変わった布団はとってもあったかくて、すぐにでも寝られそうだったけどぐっと堪えた。だって、ゆうちゃんはまだ本を読んでいるから。いつもみたいに眼鏡してない。小さな本に書かれた小さな字をじっくり見つめている。おれにはただの文字の羅列にしか見えないけど、ゆうちゃんにはそれは物語であってつまりゆうちゃんにとって価値のあるものなのだそうだ。…うん、自分で語っておいて意味はよく分かってないけど。とにかく、ゆうちゃんが寝るまで寝ないって決めたのだ。だってそうでもしないとゆうちゃんの寝顔見れないし、ぎゅうって抱きつけない。柔らかな感触と、ゆうちゃんの匂いを感じながら眠りたい。折角そばにいるんだから。
…でもゆうちゃんはそのこと分かってないから、じっくりじっくり本を読む。次第に重くなっていくおれの瞼。あんまり熱心に見つめていたからか、ふとゆうちゃんが顔を上げた。気付いたのかな、視線で。

「…ジロー、もう夜遅いんやからはよ寝とき、」
「ゆうちゃんこそ…はやくねよーよ、」
「俺は別に寝ぇへんでも…まぁ、自分の言う通りなんやけどな。ちょっと待っとき、」
「うんー…まってる…」

頭がぼぉっとして、視界がぼんやりしてきた。そろそろ限界かもしんない。泥の海に沈むようなずぶずぶと深みにはまっていく感覚がする。ゆうちゃんは今どこにいて何をしてるか分かんなくて、出来るだけ早く来て欲しい。おちちゃうから。

「電気消すで、」
「んー……」

ぱちん。視界が一気に暗くなる。もう何にも見えない。夜だから当たり前なんだけど。何となくゆうちゃんが近付いてくる気配だけを感じて、最後の力を振り絞ってぎゅっと布団を掴む。もうちょっとだからって自分に言い聞かせて、意地でも起きてる。多分身体は半分位寝てると思うけど。

「…すまんなぁ、気付かんくって」

もぞもぞおれの布団の中に入ってきたゆうちゃんは冷たかった。おれがあったかいんだろう。すぐにくっついて、やっぱり今日もゆうちゃんの寝顔は拝めそうにない。でもぎゅって出来る。本がないからおれはゆうちゃんを独り占め出来る。それだけで今日はいいや。そろそろ思考も回らなくなって、強いゆうちゃんの匂いに包み込まれながらふっと身体の力を抜いた。どろどろの海へと沈んでいく。


***


睡眠は人間にとって重要なことであるからして、だからこそこうやって真っ暗になると皆布団に包まり夢の世界へと旅立つのか。太陽のある真昼間は眩しくて温度が高いから、暗く涼やかな時に睡眠を求める。休息と、一日の出来事の整理をするために。ぼぉっと考えていたら、やっぱり何時も通り脳内が活性化したらしく睡眠欲が湧かない。隣におっきな按摩があるけど、ぐーすかいびきかいてぐっすり寝こけていらっしゃいますけど、眠くない。読んでいた本は一応キリの良いところまで読んだので気にはならないが、明日の日程やら部活やらがぐるぐる回り出したので多分今日も眠れない。整理なら今してる。それだけでは足りないのだろうか。

(…迷惑、かけてしもたかなぁ…)

彼は寝ることが最も好きだ。それを、自分のせいで必死に我慢していたのなら可哀想だろう。快適な安眠のために抱き枕があると嬉しいと言っていたし、それを自分に求めている事も良く知っていたから申し訳なく思った。暗闇に慣れた視界で時計を見れば、多少見辛かったが深夜2時くらい。それは流石に中学生には辛かろう。6〜8時間がベストだったような気がする。彼はもっと寝ているが。

「……ジロー、」

出来れば彼には、俺の代わりに良い夢を見ていて欲しい。するりと撫でた頬は柔らかくて、思わず抓りたくなった衝動を抑えた。


おやすみなさい良い夢を



→最近とっても眠いので(単なる睡眠不足)書いた眠たい慈郎と眠れない忍足の話。二人は対比で書きたくなります。

20121011


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