短編 | ナノ

穢れ無きその唇に

忍足が俺のこと好きだって知ったのは、多分クラスメイトから。俺はふぅんって思って、少しだけ興味を持った。一応同じ部活だし、レギュラーだからどんなヤツかくらいは理解している。だから気になった。何でわざわざ俺の事なんかを好きになったんだろうって。顔立ちも悪くないし、そこそこ女の子にモテてるって岳人から聞いたことあるのに。

単刀直入に、尋ねた。他に人がいると話しにくいかなって思ったから、二人っきりになった時に。俺は本当に軽い気持ちだったし、その先のことも何も考えてなかったから、今になって考えればすごく失礼で忍足からしたら嫌になるようなことだったけれど。

―それでも忍足は、俺の問いに答えた。聞いた時目を大きく開いて、それからその目はただ俺だけを見つめて。


「…そうやよ、」

いつもの囁くような声をもっと静かにさせて、忍足は俺の目を見て言った。多分ここで忍足は、淡い可能性やら何やらを諦めたようだった。何だかふわりと冷たい何かが触れたような、きっと忍足の目か雰囲気か何かが、その場に漂ったような気がしたから。

俺はすごく考えなしで、空気が読めていなかった。今になって気付いたって遅いのに、俺は何にも知らずに忍足の心を抉った。何にも知らない顔をして、純粋な忍足の心にナイフを突き刺す行為をそ知らぬ顔でやってのけたのだった。

「…じゃあさ、俺のことどれくらい好きなの?」

出来心で、つい。その一言に尽きる。その時の俺は、興味本位でそれを聞いた。何にも考えず、空気を読まず、自分の頭の中にあるふとした疑問を解消すべく、口から漏れた言葉だった。その時の忍足の表情なんて覚えてない。見ようとも思ってなかったからだろう、視界には確かに映っていたはずなのに、どんな表情だったかなんて聞かれても答えられない。
忍足は少しの間動きを止めて、声も出さなかった。俺はそれを見ていた。忍足の答えが聞きたくて、俺はじっと言葉を待っていたけれど、忍足が俺にくれたのは言葉ではなかった。

忍足が動いたのには気付いた。答えを先延ばしにする為に、トイレかどっかへでも行くつもりなのかな、とか思ったりした。忍足は俺に近付いて来た。それを俺はただ見ていた。何故かなんて悩まなかった。だってそれからの行為を、俺は予想していなかったから。


予想すらしていなかった事態。それは、忍足の唇が―

「…最低やろ?俺。そんくらい自分のこと好きやったんやで、」

触れた時間は一瞬で、すぐに離れてしまったけれど。感触だけは鮮明に、俺の唇の上に残った。


→慈郎が忍足のこと大好きな話をよく書くので、忍足片思いな話を書くのは新鮮でした。







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