短編 | ナノ

鈍いにもほどがあるだろ

「つまんないんだけど」

ぶっすう。何やよう分からんけど、俺の恋人(やと思う。多分)が俺の机の上を占領している。何でやろう。しかも機嫌が悪そう。うわぁめんどくさい、俺まだ読みかけの本半分も残ってんけど。今日中に読めそうに無いな。睡眠時間削ろかな。

「本没収」
「あ、ちょい待ち!!しおりはさんどくから」
「…。」

…一応しおりはさましてくれるんや。没収なんて言われたから、てっきりそのまま返ってこんのかと思った。ちょっとほっとした。何やかんや言うても優しいもんな、自分。

「…はい、もうええよ」
「本は別にいらねぇよ」
「え、でも没収するんやないの?」
「没収して欲しかったの?」
「いや、ちゃうけど」
「じゃあわざわざ渡さなくても良くない?」
「…そやね…、」

盲点やった。てっきり自分が欲しかったんやと思っていたので当たり前のように渡そうとしてしまったが、彼がこんな純文学とか読んだりはせぇへんよな。天地ひっくり返るよりも、空から槍が降ってくるよりも有り得へんわ。

「…忍足、」
「…ん?何、」
「構えよ」

そう言って彼は、がたんと大きな音を立てて椅子から立ち上がると俺の胸倉を掴んだ。え、ちょっと待ってどういうこと?これってDVっちゅーヤツ!?バイオレンスは此処に求められてへんでジロー!!
って思っとったら、彼の顔が急に近付いてきてびっくりした。え、まさかあれかいな、頭突き!?それは嫌や、痛そうや!!案外彼の頭固いっちゅーか石頭?なんかな、どうなんやろ、フツーの頭ってどうなん?分からん!少なくとも謙也は石頭やった。

「…お前さぁ、思考回路おかしいよな」
「は?今何て…」


ぶちゅう。

唐突だった。俺の唇とジローの唇がくっついたのは。あ、頭やないんや、って一番最初に思ったから、ジローが言っとることの意味がほんのちょっとだけ分かったような気がした。そうやん、俺たち恋人同士やったね。キスの一つ位したっておかしないよな。堪忍なジロー、ずっと放っておいたりして悪かったな。謝るわ。…ジローが唇離してくれたら。








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