花の色
「『愛する人を失った世界には、どんな色の花が咲くのだろう』、ねぇ…」
「どうしたの?ゆうちゃん」
「ん?いや、ちょっと小耳に挟んだもんでなぁ」
きょとんと目を丸くしながらじっと自分を見つめてくる慈郎に向かって何となく、忍足は言葉を呟く。
「…愛する人を失うた世界でどんな色の花が咲くかって、分からんと思うんよ。だって恋人失った世界やで?つらくない訳がないやん。正直花が咲いとることにも気付かんのやないかな、って思うた。そんだけ」
頭の中を整理する為だけに口に出していた言葉は、誰からの意見も求めてはいない。これが己の考えであって、答えだと自分自身に理解させる為だけにしている行為だから、やや雑に忍足は言の葉を紡いだ。そしていつものようににこりと笑う。しかし慈郎は、いつものように笑い返しはしなかった。
「…ゆうちゃんはいつも、起きてないことを考えてかなしい顔するよね、」
低めのゆったりした口調で、慈郎は言う。予期せぬ言葉に、どこかはりついたような笑みを浮かべていた忍足がぴくりと小さく動いた。
「ゆうちゃんね、気付いてないかもしれないけど、多分今のこと考えてる間に一回おれのこと殺してるよね。いや、ゆうちゃんは一回だけじゃなくて、もっともっとおれを頭の中で殺してると思う。それはゆうちゃんにとっての自分を守るために必要な思考回路だから無意識なんだろうけど、でもやっぱり無意識だからこそゆうちゃんに言いたいことがあるの、」
するりと手慣れた手つきで忍足の手を取りその手を両手で包み込んだ慈郎は、しっかりと忍足の目を見つめて言った。
「―おれは死んでないよ」
「、」
「だからまだ、ゆうちゃんが気付いてないだけで花は咲いてるし、色だって分かるよ。大丈夫、分かんなかったらおれが教えてあげるから」
だからそんなにかなしい顔しないで。
慈郎は囁くような声で呟くと、そっと忍足の手を引く。そして、「おさんぽしよ」と言って忍足を外へ連れ出した。
→最初の文章は好きな曲の歌詞から。先のことを考えて自分の被害を最小限に抑えようとする忍足と、先のことばっか考えすぎちゃダメだよって牽制してるじろちゃん。