短編 | ナノ

いい加減にしろ

「おいお前ら。合宿内でいちゃつくんじゃねぇ」

苛々した口調で跡部がそう告げると、青い髪の丸眼鏡の男は眉を八の字にして謝った。いつも通りの穏やかな口調で、聞き様によっては本気で謝っていないようにも聞こえるが、一応彼は本気で謝っているつもりである。ただ、謝るだけで改善策は口に出さないのには理由があった。それは勿論跡部も十分理解していることだが、他校がいる場所では流石に部長の跡部が言うより他に無いのである。

「すまんなぁ…毎回」
「分かってんなら同じこと何回も言わせんじゃねぇよ」
「悪いとは思っとるんやけど…」
「…言いてぇ意味は分かるけどよ、」

彼らが合宿中もいちゃついている理由は一つ。したいから、である。それは正直のところ常識の範囲内であればまだここでも許されるというのに、所構わずやるので結果的に跡部に苦情が来るのである。忍足は一応常識人なので、所構っていないのはもう一人の方だった。

「お前は分かってんのか?アーン?」
「…だってぇ、ゆうちゃんといちゃいちゃしたいんだもん…」

小さな声で呟いた慈郎は、座っている忍足の膝に乗って忍足の首筋に顔を埋めている。時折ちゅっ、ちゅっ、とリップ音のような音が響くのは、慈郎が忍足の首筋を吸ったり舐めたりしているからで、つまり現在進行形で彼らはいちゃついているのである。勿論合宿中に。(ちなみに今は夕食が終わったフリーの時間)そんなんだから怒られることを慈郎は理解していない。というか、理解しようともしていない。

「…、とりあえず、行為に、及びそうになったら人気ないところに行く、ことにはしとるけど…、っ、」
「忍足喋るな。息を呑む声が異様にえろい」
「そこがいーんじゃん。ゆうちゃんかわいいよ〜」
「お前はなぁ…。はぁ…、疲れた。」
「ほんま、かんにんな…っ、あ、」
「んー?どうしたの、ゆうちゃん」
「いや、ちょ、自分どこ触って、んっ、」
「だーってさぁー、もう夜だし良いかなって」

何の悪びれも見せず、さも当然のように言ってのけた慈郎に、忍足は意を決して言葉を紡いだ。出来るだけ、低い声で。

「…今襲ったら合宿中セックス禁止」
「えーーー!!!やだ、ゆうちゃんそれはぜぇったいにやだー!!」
「…じゃあ人前で仕掛けたりすんなや。次ヤったらホンマに禁止するからな、」
「ごめんね、ゆうちゃんごめんね!!だから怒んないで、」
「……ってことやから、跡部今回は…堪忍したって」
「…あぁ、」
「うわぁんゆうちゃんごめんなさーい!!もうしないからこっち向いてーー!!」

さながら漫画のように目をうるうるさせて忍足に懇願する慈郎と、首に触れながら「…頭痛なってきたなぁ…」と呟く忍足の姿を見て、跡部はふと、「ジローへの教育間違えたなぁ」とぼんやり思うのであった。







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