短編 | ナノ

眠り姫はかく語る

忍足はまだ一度も、金髪の髪の少年の起きた姿を見たことが無い。運が悪いのか、それとも丁度運が良いのかは分からないが、少年はいつでもぐっすりと眠っている。所構わず何処ででも眠れるというのは便利だとは思うが、こんなに爆睡しているのを見ると大丈夫なのだろうかとも思う。誰かに攫われたりしても気付かなさそうで。

「この子大丈夫なんやろか、」
「あ?あぁ、ジローなら大丈夫だぜ。いつものことだから」
「ふぅん、」

あまりにも美しい造形に忍足は触れようとはしない。繊細で壊れてしまいそうだと自分が思っているというのもあるが、どうせなら自然に彼が目覚めたところを見たい、というのもある。出来れば彼が起きるまで見ていたいけれど、そんな時間は一年の忍足には無いので。

「はよぅ起きてな、眠り姫さん」

さらりと囁いた口説き文句に岳人が身震いするのを見ながら、忍足は笑いながら彼の元から離れた。


***

「ってことがあってさ、」

休日の午後。ジローと遊ぶ約束をしていた岳人はふと、先日の忍足の台詞を思い出したのでジローにあったことをそのまま話した。ジローはさっきまで一緒にゲームをしていたので完全に覚醒している状態で、菓子を頬張りつつそれを黙って聞いていた。そして岳人の話を聞き終わったジローは「…へぇ、そうなんだ」と短く返事をした。この話で岳人が言いたかったのは『忍足がジローを童話のお姫様扱いしているのが正直気持ち悪い』だが、話を聞いていたジローはそれをまったく違う風に受け取った。

「キスすれば起きるのにね」

さらりと。忍足がジローをお姫様呼ばわりした時と全く同じくらいにあっさりと、ジローは真顔でそう言った。予期せぬ発言に、岳人が固まる。だがしかし、ジローはそんな岳人に向かって更に言葉を付け足す。

「だって眠り姫って王子様のキスで目を覚ますでしょ?じゃあ起こしたいならキスすれば良いじゃん。ねぇ?」

岳人、と口には出さなかったが、目線がしっかりと岳人を見据える。誰がどう見ても、というか幼馴染の自分が見てそうなんだからそうなんだろう。今のジローの発言は本気だ。間違いなく。岳人はどうすれば分からず、悩んだ末に首を縦に振った。何故だろう、今のジローに逆らってはいけないような雰囲気が、ここにはあるような気がする。絶対に何かがおかしいのは分かっているけれど、これ以上何かを言ってもしジローの気に触れるような発言をしてしまったらどうすれば分からない岳人は、これ以上の会話は止めようととりあえず新しい菓子の封を切った。


→ずっと、眠り姫ネタは書きたいと思ってたのでネタを貰った時は狂喜乱舞しました。多分また書くと思います。だって公式で忍足慈郎のこと「眠り姫」って…。あれはすごく美味しいと思います。







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