短編 | ナノ

暗幕は降ろされた

(…あ、終電逃した)

いつか来るだろうと思っていたが、まさかこんなに早く来るとは思わなかった。それが、今の感想だった。

(…まぁ、ええわ。俺やないし)

終電を逃したのは忍足ではない。ソファでぐっすり眠っている慈郎の方だ。一応勉強を教えてもらうことを口実にわざわざ忍足の家に来たというのに、慈郎は早くに寝てしまった。まぁきっとそうなるやろうな、と高を括っていた忍足は、動じることは無かったけれど。
そっと毛布をかけてやった後、忍足はふと慈郎の鞄の中身が気になった。悪戯しようとか考えた訳ではなく、教科書とかプリントとか大丈夫なのかが気になっただけだが、多分大丈夫であろう事は流石に察しがつく。それでも、ぺしゃんこになったさして中身の入っていなさそうな鞄を引き寄せた。軽い。何も入っていないんやろうな、と思った通りだった。

「何見てんの」

いつの間にやら目を開けて此方をガン見している慈郎の声。二人しかいない空間に、その音はやけに大きく聞こえた。

「何入っとるんかな思て」
「何もないよ」
「見たから知っとる」
「そう」

もぞ、と毛布を剥いで大きく伸びをする慈郎を見て、帰る気なんかなと思った。けれど、もう帰れるような時間ではない。終電は既に無いし、中学生がタクシーを使うことも無いだろう。歩いて帰るにしては、距離がありすぎる。

「今何時?」
「…11時半や」
「…マジで?」
「時計見てみい。何ならテレビつけたろか」
「いや、そこまでしなくても良いけどさ…良いの?」
「何がや」

慈郎の金色の目が歪む。嗚呼俺は、この瞬間を知っている。次のアクションが分かって、バレないように少しだけ後ろに引いた。無駄なことは分かっているが、気圧されたらそうするしかない。敵わないことを知っている。だから最初、無理にでも帰らせようかとも思ったのだ。結局俺は彼に甘かったのだが。

「二人っきり、なんだよね?」
「そやな、今日は一人やって朝聞いたからな」
「じゃあ分かるよね?俺が何を言いたいか」
「…。」
「分かんない、なんて言わないでしょ?だからこれは、了承を得たと思われてもおかしくないよね?」

じりじりとにじり寄ってくる慈郎から逃げようと、同じように少しずつ逃げる忍足。でもすぐに壁にぶつかって、逃げ道が無くなったのは忍足の方だった。

「…慈郎、」

止めろと言う言葉の代わりに、名を呼んで相手を制す。聞かないだろうと思ってはいるが、このまま全部されるがままにされるつもりは無かった。

「忍足、」

思った通り、慈郎は忍足の言うことを聞きはしなかった。押し当てられた唇に、一瞬たじろいだもののすぐに慣れる。ちゅ、ちゅと何度も角度を変えて交わされるそれに、諦めた忍足はそっと目を閉じた。



→言わせたかった台詞が書けなかったけどこのまま終わった方が良いと判断した。忍足はちょっと前に慈郎に告白されて襲われかけたので、警戒してたんだけどやっぱり彼には甘かったという話。慈郎はもうちょっと経ったら動き出そうと思っていただけに、ちょっとびっくりしている状況。








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