短編 | ナノ

境界線を超えた先

中一くらいの慈郎と忍足。部活終わり。

「自分病気やなかったんやな」

今までずっと誤解しとったわ。堪忍な。

部室で二人きり。服を着替えてた途中で、ふとゆうちゃんがそんなことを言い出した。おれはすっごくびっくりした。だっておれ、ゆうちゃんに話しかけられるのはじめて?いやそうでもないけど、でもでもすっごくめずらしーことなんだって。いつもおれからじゃないとおれ見てくれないときあるしね。だからびっくりしたの。ゆうちゃんがおれに、話しかけてくれるだなんて!!

「あ、えっと、うん!ありがとー!!」
「お礼言われるようなことは何一つしてへんなぁ」
「あれ?あの、でも、うれしかったから!」
「嬉しいって…誤解が解けたことか?」
「ううん、ゆうちゃんがおれに話しかけてくれた事が!」

どうしよう今すっごくうれしい。心臓がどきどきして体が熱くてでもしあわせなこのキモチ。ゆうちゃんにも届かないかな、おすそわけとか出来ないかなぁ。

「自分ってホンマにけったいな奴やなぁ…考えとることが全く分からんわ」

ゆうちゃんは大きくため息をついて、でも何だか嬉しそうにも見えた。にがわらいっていうのかな。多分そうだと思う。そんな顔もすきだよ。ゆうちゃんなら全部すきだけどね!

「うん、全部口に出しとるからな。気付いとらんかもしれんけど」
「え?…あれ?もしかして全部しゃべってた?」
「よく分からんけど自分に好かれとることはよう分かったわ」
「あ、えっと、うん!おれゆうちゃんだいすきだよ!」
「さよか。ありがとうな」

そう言って俺の頭をよしよしとなでてくれるゆうちゃん。やさしいな。表情もやわらかくって、なでる手もやさしくってだいすきだ。

「さて、そろそろ着替え終わらんと遅くなるで。さっさとしぃ」
「え、あ、うん!ちょっと待って、もうすぐだから!!」
「はいはい、着替え終わるまで待ったるよ」
「え、待っててくれるの?ありがとー!!」
「自分が言うたんやろ?このまま放っといて寝られたら困るしな。しゃあなしや」
「しゃーなしでもいいよー!!ゆうちゃんありがとーだいすきっ!!」
「抱きついてこんでええからさっさと着替えてぇな」
「あ、ごめん」

思わず抱きしめちゃった。だってうれしかったんだもん。文句を言いつつちゃんと待っててくれるゆうちゃんのために、おれはがんばって服を着替えた。おれ着替えるの遅いから、いつもみんなに置いてかれるんだよね。でもゆうちゃんは当たり前のようにそこにいてくれるから、あせっちゃうけどいつもより早く出来そう。これが、滝ちゃんの言ってた『あいのちから』ってやつかな?

「…それ、愛やのうて恋ちゃうの?『恋する乙女は〜』ってやつやろ、確か」
「え?そうなの?おれおとめじゃないよ?」
「人は恋をすると何でも出来るような気がしてくるもんやよ。今のじろちゃんみたいに」
「あ、そうなんだー…じゃあなっとくー。…はい、出来たよ!」
「ボタン掛け間違え取る上にネクタイしっかり結べとらんけどな。ちょっと来てみ」
「うん!」

ひょこひょこゆうちゃんに近付いたら、ネクタイをしゅるしゅる外されてボタンも全部外されちゃった。それで、ゆうちゃんの指で全部直されていく。ボタンの位置もきれいに順番通り、ネクタイもしゅっときれいになって、何だかすっきりした気分だ。いっつも誰かにやってもらってるから、やり方知らないっていうか出来ないんだよね。きっちり一番上まで掛けられたそれは正直とっても苦しかったけど、ゆうちゃんがおれの為に掛けてくれたって思うと外せなくてちょっと困った。どうしようって思ってたら、ゆうちゃんが何も言ってないのに気付いてくれたらしくてそっとネクタイゆるめてボタンもいくつか外してくれた。

「ゆうちゃんありがとー!!」
「自分お子ちゃまみたいやな。周りに一人くらいならおってもええかもしれんわ、こういう子」
「?なにが?」
「何でもあらへんよ」

ゆうちゃんがまたにっこり。おれはまたどきどき。ゆうちゃんが何て言ってたのかはよく分かんなかったけど、ゆうちゃんが何でもないって言うんだったら多分何でもないんだよね、きっと。

「ゆうちゃん、帰ろ!」
「そやね」

ゆうちゃんの腕にくっついたら、ゆうちゃんはやっぱり「しゃあないな」って言って歩き出した。やさしーね。おれはだいすきだよ。







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