短編 | ナノ

羊にだって牙も歯もあるんだよ

キャラ崩壊注意!!

氷帝の天才と称される忍足侑士。俺の従兄弟でもある彼の特技といえば『心を閉ざす』である。千の技よりも何故か有名になってしまったその特技(といっていいのかは不明)を合宿内でも当たり前のように使う様は、既に周りに周知の事実として見られていた。だからこそ、気になることがある。

「自分は気にせぇへんの?あれ」
「…ん〜?何が?」

ベンチで軽くまどろんでいた彼には悪いが、この質問に答えられるのは一人しかいないので起こすしかない。忍足侑士の恋人は、この男―芥川慈郎しかいないので。

「…ゆうちゃんが何って?」
「聞いてなかったんか…まぁ、そうやろうと思っとったからええけど…あれやて、あれ」
「んー?……あぁ、」

ご丁寧に指を差した方に目を向けてくれた彼は、指し示した場所に何があるのかを少々の時間をかけたが理解してくれた。そこには今まさに心を閉ざして試合をする彼の姿がある。芥川はとろりと溶けた目でじっと侑士を見つめる。いとおしそうに、やわらかく微笑んで。

「自分は侑士の恋人って聞いたからな、ちょっと気になってん。愛する人が心閉ざしとるのってどう思うんやろかって」
「…そうだなぁ、聞かれたことはあるけどー…」

うーんとかあー…とか言いつつ、視線は決して外さない。流石恋人やんなぁ。ちょっと納得した。でもすぐに、俺は彼に話しかけたことを盛大に後悔する羽目になる。

「…ゆうちゃんってさ、えろいよね」
「うん……ん?今なんて?」
「だからさー、ちょっとあの状態のゆうちゃんはキケンかなって思ったりするんだよね、たまに。だってゆうちゃんは気付かないじゃない、誰かがゆうちゃんを見ててもさ、心閉じちゃってるから」
「う、うん…?」
「だから、ちょっとイヤかなって思ったりもしたんだけどー…でもでもゆうちゃんが閉じてる時ってすっごく色っぽい?て言うか何て言うかどきどきむらむらするんだよね。正直今でも襲っちゃいたいの我慢してるんだけどさ」
「……、」
「だからホントにキケンなのはきっとおれなんだよね。ゆうちゃんがテニスしてるの見てるとおれヨクジョーするからさ、出来るだけ見ないようにするんだけどやっぱりゆうちゃん見たいからうっかり見ちゃったりして結局ヨクジョーしちゃってゆうちゃんに泣きついちゃうんだよね。そうするとさ、ゆうちゃんはいっつも『じろちゃんはもっと我慢せなあかんで』って言いながら一緒にトイレ行ってくれたりして…」
「ちょい待ち!!これちょっとあかん話になってきてへんか…?」
「『うわー…自分すごいな、俺の試合見とっただけやろ?何でこないになるの?』って言いながらゆうちゃん…」
「ホンママジ勘弁して下さい」
「本番はここからなのに?」
「ホンマに許したって下さい」
「えーじゃあおれ起きちゃったから既に準備万端なんだけど、謙也だっけ?試合止めてって言いにいける?」
「え、ちょ、待って、え?」
「出来ない?」
「あのちょ、まっ…」
「別に良いんだけどさ、おれゆうちゃんに怒られたくないし。でもね、」

にっこり微笑む彼の顔を、思わずうっかり見てしまった。忍足謙也今世紀最大の失態である。

「ゆうちゃんにもし気があるって言うんなら、話は別だよね?」

見た目はすこぶる可愛い系の睡眠系男子(そんな言葉はない)が、己の恋人の為に本性をむき出しにした瞬間というのは…トラウマになったので誰にも話せなかった。


→何を書きたかったのは私にも分からないが、とりあえずこんなじろちゃんも私は好きです。過去ジャンルの小説を何気なく読んでたら全部攻めが腹黒だったので、何とも居た堪れなくなりました。謙也は地雷を踏んだ。







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