短編 | ナノ

崩壊する理性

ぐらりと傾きそうになる理性を、寸前のところで繋ぎ止める。流されてはいけないと、必死に縋りつく様はさぞ滑稽だろうと思いながら。

慈郎のセックスは、最初こそ下手で何も言えなかったけれど。彼はどうやら好きなものや興味のあるものの物覚えは良いらしい。地味に反応が良かったところを覚えているとことか、正直そういうのはもっと他で使った方が良いのではないだろうか。記憶力の無駄遣いだとは思わないのか…って、彼はそんなこと、考えもしないのだろうが。
慈郎は本能で動いている、と前に誰かが言っていた気がする。寝たい時に寝て、食べたい時に食べる。したいときにする。その際周りを確認したりはしない。そこが例え体育館であれトイレであれ部室であれ、彼には関係の無い話だ。本人に聞いたら、「それがどうしたの?」ってあっさり尋ねられるだろう。…あぁ、そう。実話である。あの時のきょとんとした目がいつまでたっても忘れられない。何でここまで気を配ることとかしないのだろうか。まぁ彼がしなくたって周りの誰かがしていたのだろうが。

「ゆうちゃん、何考えてるの?」

そんなヨユーあったんだ、と無駄に低い声で耳元で囁かれた。ついでにぺろりと舐められた。予期せぬ行動に、ぴくりと身体が反応する。まだ平気だと、大丈夫だと頭を落ち着かせるために必死になる。でもそんなの、彼は許しはしないのだ。

キモチよくなるのなら、一緒がイイと慈郎は言った。最初に先にイったのは誰だという話だが、それでもせめて同じくらいキモチよくなって欲しいと慈郎は言う。だって二人でシてるんだから、一人だけキモチよくなるのって変でしょ?ってそんな、今まで考えもしなかったことを急に言わないで欲しい。若しくは、考えないようにしていたことだ。上と下。どっちが気持ち良いのかなんて、考えたら負けだと思った。その答えが出たら、俺はどうすればいいのか分からなくなるから。だから。

「…ゆうちゃん、どうしたの?」

ぴたりと動きを止めて、俺の顔を覗き込む慈郎。目が大きくて、睫毛が長くて綺麗な顔が、近い。顔を背けても、手でそれを制すようにぐいっと此方を無理矢理向かされてしまってはどうしようもない。意思の強い瞳に、射抜かれる気持ちは正直つらい。息が苦しくなるほどに。

「ゆうちゃん、」
「、ええから、続きやって、はよう」
「ゆうちゃん」

顔が近付いてきて、ぎゅっと目を閉じると目尻に生暖かいものが触れた。ねっとりとした感触。彼の舌だと気付くのに時間がかかった。目を開けると至近距離に彼の顔。何故か少し泣きそうな顔だった。

「じ、ろう…?」
「おれゆうちゃんよりずっとずっとばかだけど、ゆうちゃんのこと誰よりもだいすきだから、ゆうちゃんのことすごく大事にしたいんだよ。だからね、」

ぽたり、己の頬に慈郎の涙が落ちた。

「…何も考えないで、おれのことだけ見ていて。ただ、それだけでいいの」

たった、それだけでいいんだよって。慈郎がそう言うから。その時俺は良く分からなかったけど、ふと、必死にしがみついていたであろう何かから手を離した。



***

「ゆうちゃんゆうちゃん、」
「何やどないしたんじろちゃん」
「あのね、ちゅーしたいの!」
「ええよそれくらい」
「わーい!!ちゅー♪」
「くすぐったいわぁ…」
「…おい、」
「ん?何やの?」
「さっきの話の流れからするとおかしくねぇかこれ」
「えーでもあの後からゆうちゃんちょっぴり甘えてくれるよーになったよー。進歩進歩」
「うんお前らの近況報告はいらねぇよ」
「だって何か納得してしもたんよ。あぁ、なーんにも考えんくってええんかぁって」
「だってゆうちゃんごちゃごちゃ考え過ぎだしー。そんなんじゃシアワセ逃げちゃうよ?」
「じろちゃんが逃げてまうんやったら考えるけど…」
「おれは逃げないよ!」
「それやったらええわ」
「…あれ?おれ何かまちがえた?」
「ま、頭真っ白になってなーんも考えれんくなったらじろーに甘えるってことで」
「あーそうだね、あれ可愛かったもんねー」(でれでれ)
「………(泣)」


→あまりに暗かったもんで後半で遊びました。こういう長い話って書くの好きなんですが、結果的に幸せになって欲しいのでこんな風に…。結局ただのバカップルなのです。








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