それよりも、何よりも
「……さっきのひと、誰?」
少しだけトーンの下がった声で、慈郎が尋ねてきた。さっきのひと、というのは先程まで喋っていた従兄弟のことである。何回か会って自己紹介をしたはずなのだが…、慈郎は興味の無いことに対して記憶力を使わない。だからつまり、謙也は慈郎の頭の中に入っていないのだろう。可哀想に。
「俺の従兄弟の忍足謙也。前にも説明したはずなんやけど?」
「知らなーい」
「やろうな…」
「ねぇねぇ、それよりさー」
「うん?何?」
べたぁっと体にへばりついてきた慈郎に問いかければ、とびきりの甘い声音で「ゆうちゃん、」と名前を呼んだ。甘えることに慣れているのが良く分かる。自分が聞いたくせに、「それより」と言われる従兄弟の扱いが面白くて若干頬がゆるんだ。
「せっくすしよ」
「自分恐ろしいやっちゃなぁ、」
昨日もその前もしたやろうに。まだ足りないのかと聞けば、いつだって足りないのだと言われた。ずっとずっとそばにいて、俺を触っていたいと言う彼の言い分が何だか微笑ましくて、しゃあないなぁと言いながらも結局自身が一番それを望んでいるのは既に知っている。
→じろちゃんは無自覚で謙也への扱いが酷いと良いと思って。いつまで経っても興味の無いものは覚えられない慈郎。最初の一文はリライトから借りてきました。