短編 | ナノ

俺が一体何をした

何で俺はさっきから睨まれなくちゃいけないんだろうか。

事の発端は多分氷帝が俺たちの学校に来たことだろう。アポ無しで。(しかもヒコーキ飛ばしやがったらしい。非常識にも程があるだろ。)突然やってきた氷帝のテニス部レギュラー達は、何か弁解するでもなくフツーに「テニスしようぜ!」みたいなことを言い出し、俺たちはよく状況を理解せぬままテニスコートをわざわざ案内させられた。
普通ならここで真田あたりが文句の一つでも言いそうなのだが、生憎今日は幸村がいたし(真田は幸村には決して逆らわないから)その幸村が面白がって「いいよ」って言っちまったので(幸村を否定している訳ではない)なくなくテニスをすることになったのが数時間前。今コートに入ってるのは参謀と赤也のダブルスと、向こうの二年生コンビか。俺はさっきジロ君と試合したので(モチのロンで俺の勝ち)のんびりしている。…うん、したかったんだよのんびり。でもよく考えたら出来る訳無いよな。だって俺と試合したジロ君が覚醒していない訳ないだろう。

「すごかったね丸井君!!おれちょーカンゲキしたよ!!!」

正直本人自体は嫌いじゃないし、弟みたいに可愛がってる自信はある。だってこうやってきらきらした目で楽しそうに話しかけられたら誰だって悪い気はしねぇだろ?でもなぁ…。

「丸井君のボレーホントに天才的だよね!おれもみならいたい!」
「あはは、ジロ君もすごかったぜ?」
「そんなことないよー!」

だから何で俺が睨まれなくちゃなんねぇんだよ!やっぱ理由はコイツか!?試合する前は視線とか一切感じなかったよな確か。いやまぁ確かに氷帝っていつの間にかギャラリーいっぱいいることで有名なんだけどさ。ってかお前らはどうやって来たんだよ。金持ちって目的の為なら手段選らばねぇな。…じゃなくて。
俺の予想では既に誰が俺を睨んできてるかの予想は大体ついてる。立海の天才を舐めんじゃねぇよ、伊達に天才の肩書き背負ってねぇんだよ。何かちょっとずれた気がするけど気にすんな。とりあえずあれだ、一度相手の方を自然に見てやろうか。そうすれば相手も気付いて睨むのも止めるだろ。ってか止めてくれよ。
出来るだけ自然に、ちらりと一瞬そっちを見る。氷帝のメンバー達がいる向かいのベンチ近く、さっきから俺を睨む男へ。(ジロ君まっすぐにこっち来たけど自分のとこ帰んなくて良かったんだろうか。というか何で誰も怒んねぇんだよ)

かちりと合った黒く深い瞳が、俺をじっと見つめてた犯人だった。

吸い込まれそうな双眸(俺から相手までの距離は結構あるので実際にそんなことはないのだが。比喩だ比喩)が、すぅっと細まる。そして口角がつり上がり、にこ、っとまるで模範のような完璧な笑顔を作ってみせた。ご丁寧に手まで振って。
俺に気付かれていたことに気付いていたのか。それならば余裕綽々でいられるのも分かる気がする。でも俺が分かったのは、こいつはかなり厄介なタイプの人間だって事だ。対処法が見つからない。頭を悩ませる俺のことなど隣のジロ君は知りもしないのだろうと、あの視線から逃げるようにジロ君へと視線を移そうとした時だった。

「あ、ゆうちゃーん!」

きらきらおめめでぶんぶん腕を振り出したジロ君。ちょ、今試合中だからあんま大声出したら怒られるって!そんなこと一回も言われた事が無いと思われるジロ君は、全力で手を振る。あーあれか、自分に手を振られたって思ったのか。そうだったら嬉しいんだけどな。

「ジロ君今試合中だからあんまり大声出しちゃ駄目だろぃ?」
「あ、ごめんね。ゆうちゃんがこっち見てたから、何かあるのかなって思ったの」

あ、そうだ!と急に何やら納得し出したジロ君は、俺の手をぎゅっって握って「丸井君にもしょーかいするね!」って言いながらコートに出た。それはマズイどころの騒ぎじゃねぇだろ!とさぁっと一気に血の気が引いたけれど、何かを察知したであろう相手の男が低い声でそっと試合休憩を呼び掛けた。そのすぐ後にジロ君はコートをさも当たり前のようにずかずかと真ん中あたりを突っ走る。ゆうちゃーん!とあだ名らしきものを呼びながら、相手に何の断りも無くぶつかった(ようにしか思えないが多分抱きついたんだと思う)。ジロ君俺の手握ってる事気付いてるかな、気付いてなくても納得する。後のことを考えるとすごく憂鬱になった。(多分俺が怒られるんだろうな…)

「ゆうちゃん!」
「おかえりじろちゃん」
「うん!ただいま!」
「で、どないしたん?立海の子連れて来て」
「あ、そうそうあのね、おれ丸井君に言おうと思ったことがあってね」
「ん?何言うの?」

絶対にややげっそりしてる俺を覗き込みながら、俺の代わりに首を傾げて尋ねる。これはどういう態度を取れば良いんだ。ってかジロ君にとって俺って何者なんだろうか。ちょっと良く分からなくなってきた。

「丸井君あのね、ゆうちゃんね、おれのコイビトなの!だからよろしくね!」

よろしくってなんだよ!とか、もしかしてアイツが睨んでた原因って…とかとにかく色々言いたかったけれど。俺はその一言を聞いて脱力して、もう何も言いたくはなかった。


→バカップルに巻き込まれる丸井君の可哀想なお話。ブンちゃんと楽しそうに仲良く喋ってるじろちゃんを見て、ホンマに俺で良かったんやろかと考えてる内に知らず知らずのうちに相手を睨んでたえろたりさんと、ゆうちゃんがにこにこしながら手振ってる!って思って自分も手を振ってうずうずしてそうだ丸井君にゆうちゃんしょーかいしなきゃって周りを見ることなく暴走したじろちゃんのはなし。えろたりさんはじろちゃんがやりそうなことは既に把握してそうなので、先手を打つのも得意だと思います。跡部もね。







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