短編 | ナノ

いつまでも覚えてるよ

ちょっと色々と注意。えろたりさんと白じろちゃん。

俺が初めてシたんは、何度目かの転校先やったと思う。相手は近所のおじさんで、見た目は優しそうな感じの人やった。もう覚えとらんけど。
元よりあまり人と接するのが得意ではなかった俺は、転校してきたばっかっていうのもあってまっすぐ家に帰っていた。友達もおらんから学校におる必要がないんやな。そんな時ふと話しかけてきたその人と、何やかんやあってその人の家ん中に上がってしもうたんがそもそもの発端やった。元々家族仲がお世辞にもあまり良いとは言えない環境下で育ってきたから、同年代の子より大人と話が合うことはたまにあって、だからこそ俺はあん時あの人とあんなにべらべら喋ってもうたんやろな。家の愚痴も言うたし、学校で思うてることも散々吐いた。そしたらすごいすっきりして、俺は確かおじさんに「ありがとう」って言うたはずや。こんな話聞いてくれるのはおじさんだけやったから、お礼が言いたかってん。おじさんはにっこり笑って「いつでも話し相手になってあげるよ」と言った。俺はますますその人が良い人に見えて、親よりも先生よりもその人を信じるようになった。

何日か後。転機は訪れる。いつものようにまっすぐ家には帰らず、おじさん家へ直行した俺は、警戒心の欠片も無かった。だから純粋に、おじさんに会いにいった。見慣れた一人暮らしにしてはやや広い一軒家の居間かどっかにいたおじさんは、俺が元気良く「ただいま」と言うといつものように「おかえり」と返してくれた。きっとこれが普通の幸せなんやろうとぼんやり感じながら、何の用心もせずにおじさんの隣に座った。



…結論から言おか、俺はその日にそこで犯された。最初は困惑したけれど、行為が始まると何も考えれんようになってしもたからよく分からへん。それでも俺は抵抗はせぇへんかった。親よりも先生よりも信じとる人に、よう分からんことされたからって逃げたりはせんかった。何となくこの行為の意味が分かっても、俺に『ここから逃げる』なんていう選択肢はありはしなかった。
行為の後の記憶は無いから、果てたらすぐに寝てしまったんだろうと思う。起きた時には家のベッドに寝かされとって、姉ちゃんに聞いたら「近所のおじさんが寝てまった自分を送ってくれたんやで」と言われた。なるほど確かに納得した。
それからも付き合いは続いた。行為も、同じように。おじさんにとって俺は何なんかは知らんけど、おじさんが望むんならそれで良いと思った。それがおじさんに対する感謝の気持ちだと、途中から自身に言い聞かせるようになった。まぁ結局バレてしもうて俺の家族は俺を守るっていう大義名分を掲げておいそれと違う場所へ引っ越したんやけどな。今では思い出話にしかならん。もう二度と会うこともないやろう。それを残念だと思うことはないけれど、けれど。

「ずっとあの人は、俺ん中におるんやろなぁ」

あの人という存在が俺の中から消えることは無いだろう。もうすでに顔も声も忘れてしまったと言うのに、存在だけはちゃんとこの胸の中にある。俺はあの時満たされた何かを埋めたいと無意識に思うたびに、誰かも分からん人を探す。一晩だけの恋人と言えば聞こえは良いのか。俺はそうは思わんけど。

「…ゆうちゃん、」
「何や。自分が聞きたい言うたから話したったんやで。そないな顔すんなや」
「ゆうちゃん、」

するりと俺の身体に抱きついてきた恋人は、俺を力強く抱き締めた。痛みを感じる一歩手前。それはあの行為に似ている。
気持ち良いと痛いの境界線は紙一重。相手にとっては違うけれど、俺にとってはそんな感じ。せやから、いつだって綱渡りのような感覚を味わう。こんなことで本当に全てが満たされるのなら、何度だってするのに。何も考えへんくて良かったあの頃に、戻りたいのかと聞かれれば悩むかもしれない。けれど。

「おれ、わすれないよ」

ずっとずっと、わすれないからね。
涙で潤んだ瞳が、頑張って俺を見つめる。溢れそうな涙を、俺はじっと見つめている。
酷な事を言った。分かっていてあの話をした。共有して欲しかった訳じゃなかったけれど、違うと言えば嘘になるけど、それでも。

「ゆうちゃんから言ってくれたコトバだもん。おれ、おぼえてるよ」

無垢な瞳も優しい言の葉も、俺は失いたくはない。


→幼少期に何かあった、のは既に頭の中にあったのですが、ここまで話が大きくなるとは思いませんでした。書いてないけどこれベッドの中で二人とも服着てないですからね。







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