はじめての×××
「嫌やったら、逃げてもええんやで」
おれの身体にのしかかった状態のゆうちゃんが、何だかつらそうな声でそう言うから。どうしたんだろうと思って、ゆうちゃんをじっと見つめた。真っ黒な目に映るのは、きょとんとしている自分の顔。
「いやって何を?」
「こういうこと」
手慣れた手つきでおれのネクタイをほどいて、ワイシャツのボタンを外すゆうちゃんの指。細くて冷たいゆうちゃんの指がすきだ。ゆうちゃんの指に触られるとどきどきするから。
何で服を脱ぐんだろう。お風呂?あ、もしかして暑いのかな。それとも寒いのかな。
「言っとくけど水浴びたりする訳やないからな」
「あれ、違うの?」
「ちゃうわ。全く…無知も考えもんやなぁ」
「むち?」
「…何でもあれへんよ、気にせんといて」
「うん、ゆうちゃんが言うならきにしなーい」
その眼鏡越しの瞳がひどく歪んでいることとか。いつもは冷たいゆうちゃんの手の温度が、ぬるいこととか。気にしないよ。だから泣かないで。(心の中に、ためこんだりしないで)
あっという間にワイシャツのボタンは全部外されて、今度はベルトに手をかけるゆうちゃん。簡単にそれを引き抜くと、ぽいっと遠くに投げちゃった。そんな物を乱雑に扱う人じゃないのに。
「ゆうちゃん」
「…、」
名前を呼ぶと小さく息を飲む。せっぱつまってるっていうのはこういうことを言うのかな。ゆうちゃんのほっぺに手を伸ばすと、ふいっと顔を背けられちゃった。どうしよ、ゆうちゃんにきらわれちゃったかな。
「ゆうちゃん、どうし…」
「ごめん、ごめんな」
ゆうちゃんの手がおれの手首をぎゅっと握って離れない。ちからが強くて抵抗できない。(おれはゆうちゃんに抵抗しないけど)名前をもう一回呼ぼうとしたら、ゆうちゃんがおれの首筋に顔をうずめてゆうちゃんの唇がおれの肌に触れた。やわらかい。
「言っとくけど俺、ヤるよりヤられる方が好きやから…はよ覚えなあかんで?」
しゅるしゅるとほどかれたゆうちゃんのネクタイが地面に落ちた。
→白じろ忍お初。襲ったのは忍足ですが、この後から忍足はジローに襲われるようになります。好きなやつの覚えははやいと思うんですよこの子。