短編 | ナノ

確信犯

慈郎はずっと眠っている。

雲一つ無い空の下、青々と茂る立派な木に背中を預けるような形でぐっすりと。幸せそうな顔で涎を垂らしながら寝ている。流石に起こせへんよなと手を出さずにいるのだが、そうすると彼は一体いつまで寝ているのだろうか。せめて学校の終了時間までには起きてくれないだろうか。帰り道が違うので送っていくのが面倒だ。

「…可愛い寝顔やんなぁ、」

眠っている慈郎も起きている慈郎も好きだ。可愛い、と思う。本人に「可愛い」と言うとあまり良い顔をしないが、パッと見の印象は可愛いなので仕方無いだろう。18pの差は結構大きい。

(これで誰かが起こしてくれへんかったら、慈郎はどないなるんやろう)

今は晴天の青空だから、雨の心配はしなくても良いだろうが。もしも夕方になって夜になってもそこで寝ていたとしたら?少なくとも時間が経てば気温が下がっていくので寒いだろう。いくら子供体温だからと言えど、空気が寒ければ寒いだろうに。

(自分はそないな心配、したことあらへんのやろうな)

いつも誰かに見守られているイメージがある慈郎。大人になったらどうするつもりなのだろうか。(…ヒモ、という言葉が思い浮かんだが即座に消した。実際有り得そうで怖い)何か想像が出来ない。

彼の天真爛漫な所は好きだ。最大の長所だと思う。羨ましい、と思ったこともある。けれどなりたいと思うことは無い。嫌なところで現実主義者に戻ってしまう人間の性。だってそんな生き方をしては、他人に迷惑がかかってしまうから。慈郎は特別なのだと、本人を見て思う。愛くるしい容姿と無邪気な笑顔は時に最強の武器になるんやなぁとしみじみ感じた。

「…慈郎、」

自分結構凄い奴なんやな。
多分口に出して言うことは無いだろう。言ったらあっけらかんとした口調で「そうだよ?」とか言われそうで怖い。武器の使い方を約15年間の間にすべて熟知していそうだ。でもこれなら確かに社会に出てもやっていけるかも知れない。

「なぁに?」

ぱちり、としっかり目が開いて、いつもの覚醒した声音で慈郎は言った。

「…え?」

寝起きにしては随分はっきりした声だったことに驚いて、思わず声が出た。しかしすぐに、己の過失に気付く。

「忍足がずっと俺のこと見てるからさ、何か用でもあるのかなって思ったら寝れなかったよ。」
「…自分狸寝入りしとったんかい」
「何も言わずにずーっと俺を見てたのは何で?」
「…。」
「だんまり禁止ー。ついでに心閉ざすのもナシね」
「う…」

どうして覚醒した慈郎はこんなにも賢いのだろうか。逃げ道を塞ぐのが得意で、反論など聞く耳を持たない。跡部とはまた違った場の掌握の仕方をする。あと言わないと何かされそうな空気を作るのも上手い。

「ねぇ、忍足」

一気に近付いた距離。いつの間にか息の触れるところにまで、慈郎は接近していたようだ。気付くのが遅れて、身を引こうとした時にはもう腕を掴まれていた。

「言えないんなら、『見とれてました』で良いんだよ?」

にい、と口角がつり上がって、愉快そうに笑う慈郎と目が合った。









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