短編 | ナノ

はじまりのボールペン

きっかけは、忍足の持っているボールペンだった。

忍足がそのボールペンを持っていた時、俺は何故か『欲しい』と思った。形は何処にでもあるようなただのボールペンで、色も俺の好きなオレンジ色ではなく青色だったけど。『欲しい』と思ったらいてもたってもいられなくなって、忍足に「そのボールペンどこで買ったの?」と聞いた。忍足はきょとんとした顔で、「駅前のコンビニに売っとるよ」と答えた。その日すぐに俺はボールペンを買いに行った。2、3日はまぁ欲しかったボールペンが手に入ったことで心が踊っていたが、その後からは急に興味が無くなってしまった。何故だろう、と考えていると、忍足があのボールペンを使っていないことに気付いた。思わず忍足に「あのボールペンどうしたの?」って聞いたら、「落っことして失くしてしもた」と苦笑いを浮かべながら答えた。俺は持っていた、既に興味のなくしたボールペンを忍足に渡して、「あげる」と言った。拾った訳じゃなく、買ったものだけれど。厳密には忍足のボールペンじゃないけど、俺はきっと何となく、それを忍足のボールペンの分身みたいに考えてたんだと思う。だから、忍足があのボールペンをなくしたのなら、俺のボールペンを使うべきだと思った。忍足は勿論断ったけど、無理矢理押し付けたら渋々受け取ってくれた。

それから段々と、俺が欲しいと思ったものはすべて忍足の持っているものであることに気付いた。ジュースもたこ焼きも何もかも。俺は忍足のものがどうしても欲しかった。忍足にねだると大体分け与えてくれたから、俺はちょっと満たされた。

―そしていつからか、俺の欲しいモノはモノではなくなった。

モノではなくヒトが欲しいのだと。そのヒトの人生をまるごと欲しいとさえ思った。他人に何と言われようとも、絶対に手に入れてみせると誓った。俺は、欲しいモンは何が何でも手に入れなきゃ気が済まない性分なんだ。

「それは光栄やなぁ」

俺の話を聞いていた忍足は、やんわりとした口調でそう言った。照れるわぁ、とも。はにかみながら、部誌をカリカリと書き進めている。その手には、あの時の青いボールペンが握られていた。






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