短編 | ナノ

せめて鍵は閉めたって

調子に乗らせ過ぎた気がしないでもない。膝の上になんか乗せるんじゃなかった。がっちりと顔を固定された状態で、慈郎にガン見された俺はどうすれば良い?あー何か目がキラキラしてて怖いんやけど。自分は俺に何を期待しとるん?あ、いや答えて欲しい訳やないんやけど。(とんでもびっくりな解答が返ってきそうで怖い)

「忍足」
「は、はい?」

にこぉ、と愉しそうに笑う慈郎。はいはい天使天使。俺はどう見たって慈郎が天使にしか見えへんよ、いくら怖いこと目の前でされてもな。(そう言えば見たことないかもしれんわぁ、慈郎の怒ってるとこ)明らかに外見のお陰で得してる彼は、きっと誰よりもその美しい顔の使い方を理解している。顔が近付いてもキスをされても、嫌な思い一つしないのはきっとそのせいだ。

「…何しとるん、」
「忍足のジャージをですねぇ、脱がせようかと」
「じゃあその手は何やの?」
「どうせならって思って」
「どういうことなん?」
「…ヨクジョーしました。これで良い?」

ぽいっと投げ捨てられた俺のジャージ。手をかけたのは下のユニフォームの留め金。露になった首筋に、そっと舌を這わせる慈郎。熱い息が首筋に当たってこそばゆかったのでちょっと身を捩ったけれど、意外と力が強い慈郎に押さえつけられて動けなくなる。最初からこうなることは百も承知だったが、覚悟していても逃げたくなる気持ちは変わらない。逃げられるなら逃げたい。恥ずかしくて死にそうだから。(慈郎がそれを理解してくれるとは思っていない)

「忍足可愛Eー」
「やめい、恥ずかしいんやけど」
「でもでも、忍足も案外その気でしょ?」
「…。」
「あ、今心閉ざすなバカ!肯定したって思うかんな!」
「バカは禁句やって何回言えば分かるんやど阿呆!!」
「突っ込むところはそこなの!?」

大丈夫なの!?と突っ込まれて何となく安心する。流石関西の血。こういう時も笑いを忘れない抜かりない性分。

「ねぇ、イイでしょ忍足。痛くしないからさ」
「…っ、じ、ろー…」
「何でも良いけどお前ら、部活もう始まってんぞ」

この甘い雰囲気にそぐわぬ、第三者の声。俺にとっては救いの手だが、彼にとってはそうでもない。なんたって美味しいところを邪魔されたんやしなぁ。それは確かに嫌かもしれん。

「知ってるよ。でも俺は忍足の方が大事だもん」
「お前なぁ…跡部に怒られても知らねぇからな、」
「ダイジョーブ、後でフォローはするからさ」
「はぁ…まぁ、良いけどな。俺は馬に蹴られて死ぬ気はねえからな」
「妥当な判断だね」

あれ、もしかして俺助けてくれへんパターンやないのこれ?そういえば宍戸は慈郎と幼馴染みやから慈郎のことを良く理解してるんだった。…ってことは、慈郎が丸め込むのも容易い…とかそういうこと?

「…あんまり無理させんなよ」
「りょーかいりょーかい!」

そしてぱたんと閉まる扉。あ、ホントに俺助からんかった。予想って案外外れないもんやなぁ。
じ、と慈郎を見ると、「そんなに見られると照れちゃうよ」なんて軽口を叩いている。結局俺は流されるより他にないんやな。もうええわ。








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