短編 | ナノ

その手離さないで

甘やかしてくれるのが当たり前だった。だって慈郎だもんね、で会話は終了するような自分に満足とまではいかなくとも納得していた。甘やかしているというよりも、諦められているといった方がきっと正しいんだろうが。

「じろちゃん起き、跡部に怒られてまうで」

だから、誰にでも同じ優しさを与える彼を気にするようになった。誰に対しても変わらない態度が気になって、中身を暴いてみたくなった。それが厄介なものだと分かってはいたけれど、心ってどうしようもないからさ。

「うーん…、」

とろりと目を半分ほど開けて彼を見る。キレーな顔してんなぁ、忍足。眺めはサイコーに良い。だって俺しか見えてないだろ?お前。それが一番気分良い。

「こーら、じろちゃんあかん。ちゃんと起きなあかんて」

ぺちりと額を叩かれる。全然痛くない。まず彼は手を上げる人間ではないので、叩き起こしたりはしない。宍戸は逆に蹴って起こすタイプだから、気をつけていないととても痛いのだ。そう考えると、忍足は随分優しいと思う。

「んー、ん…」
「あかんて、怒られるのはジローだけやないんやで?」
「う…」

それは忍足が可哀想かも、と思ったらばっちり彼と目が合った。

「起きたんなら行こか」
「あー…、」
「こら、しゃきっとしい」

まるで言い方がお母さんみたいで笑える。話を聞いているとどうやら母親とはあまり会話してなさそうなので、(仕事が忙しいんだそうだ)これは気質なんだろう。または関西の血。忍足は俺の体を起こすと、「今日はおんぶは無しな」と言った。あれ結構楽ちんだから好きなのに。あと密着率が高いから好き。でも今日は無し。残念だなぁと思っていると、そっと手を握られる。冷たい手だな、まぁ俺が子供体温で温かいだけなんだろうけどな。

「ジローが途中で寝んように、手繋いでおいたるからな、」

逃げたらあかんで、ときっと忍足は言いたいのだろう。でも俺がこの手を振り払うとでも思っているのだろうか。すきなひとの手を振り払う理由があるなら教えて欲しい。だってこんなに幸せなのに。










「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -