短編 2 | ナノ

苛立ちと天然

やんじろちゃんと白じろちゃん。

絶対に弟はいらない、と思った。確かに昔は欲しかったけど、憧れとか色々あったけれど、今では絶対に弟はいらないと心に誓える。
だって目の前にいる俺にそっくりな男と会話してる(ようで全く出来てはいない)だけで、気分はげんなりもう喋るのも億劫になってくるのだ。もうこいつどうにかしてくれよ頼むから。

「今日ねー学校でポッキーもらったんだけどー、もう一人のおれも食べる?」
「…いらない。俺も貰ったし」
「そうなの?オソロイだね〜」
「そうだねー…、……はぁ」

何でこいつ俺と顔同じなのにそんな間延びした喋り方するんだよ、というか俺ってそんなに目デカかったんだな…。いや、ずっと上目遣いだからそう見えるだけなのか?どちらにしても気持ちが悪いなホントに。自分に似たヤツが目の前にいるだけですでに勘弁して欲しいのに、何でこいつ話しかけてくんのかな。何考えてんのかまったくわかんねぇよ。
俺がげんなり(むしろげっそり)してる事に気付いたのか、ヤツはポッキーをもぐもぐしながら「どーしたの?」って尋ねてきた。どうもこうも全部お前のせいだと言えばいいのか。今ならヤツに向かって罵詈雑言吐ける自信があるのに、それを言ってしまうと自分がすごい嫌なヤツになるのは目に見えているのでぐっと堪えた。…いや、全く気にしないっていう可能性も捨てきれないのか。じゃあどうすれば良いんだよ。

「…」

俺が悩んでいる間、ずっとヤツは俺を見ている。気にしないでポッキー食ってればいいのに、何も言わずにじぃっと俺を見て、ふとヤツの身体が動いた。反射的に身構えそうになったが、ヤツは俺の顔に手を伸ばして頬に触れると、何の脈絡も無くぐにゃりと頬を抓った。片手じゃなくて両手で。

「…痛ぇんだけど、」
「あ、ごめんね」
「ごめんねじゃなくて離せよ」
「あのね、えっとね、」
「えっとじゃなくて離せっての」
「にこーって」
「は?」
「にこーってするとね、楽しくなくても楽しくなるよ。だからもう一人のおれもね、こう、にこーって」

うににと抓った頬をやや上げながら、ヤツはにっこり笑って言った。痛い痛い。あと喋れねぇ。うーだのあーだのしか言えなくなったじゃねーか。ヤツはしかめっ面の俺を見て、「目元もこわいなぁ…」なんて呟いた。ほっとけ。お前のそのよくわかんねぇ言動を止めれば多分治るから安心して寝るなりお前の大好きな『ゆうちゃん』とか言うヤツんところ行って来いよ。俺はお前のお守りをする気は一切無いんだからな。
いきなり頬を抓った男は、離れるのもいきなりだった。そして今度は眉間を人差し指でつんつんして、「シワ作っちゃダメだよー」なんてあほっぽい口調で言った。好きで作ってる訳ねぇだろ。よく考えろよ。

「ねぇもう一人のおれ、何で怒ってるの?」
「オブラートに包んで言ってやればつまり全部お前のせいだ」
「…」

まあるく出来るだけ軽く言うつもりだったのに、口にしたら棘だらけだった。あと本心が口から出た。流石にこれは言い過ぎたかな、と少しだけ申し訳なく思わんでもなくもない。ヤツはさっきまでの笑顔ではなくなっていたから、最悪泣くかもな、と思った。(それくらい俺は低い口調でまくし立てるようにヤツに本心を告げたから)

「…もう一人のおれ、」

名前呼べないからって長いネーミングだな、と思いつつ、何故か胸がドキドキした。俺のせいで泣くのか。それか怒るとか何かアクションを起こすのだろうか。ヤツは俺の方をじっと見つめて、極めて真剣な顔(それでも女の子達は可愛いと言いそうな顔だが)でぽつり、と呟いた。

「…おぶらーとってなぁに?」
「、………突っ込むとこそこなのかよ…」

今ので一気に力が抜けた。くらりと眩暈がして、俺は何も言えずに近くのソファに半ば倒れこむようにして座った。もう嫌だこいつ。


→ヤンジロは白じろ苦手だろうなってずっと思っている。通訳:えろたりさんがいて初めて会話が出来るんだと思うよ。きっとね。








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