短編 2 | ナノ

負けるな謙也君!!

謙也と侑士と白石。多分蔵→謙。

「謙也、一緒にDVD見ぃへん?」

従兄弟がそう言うのはさして珍しいことではなかったので、謙也は特に何とも思わずそれを了承した。いつもラブロマンスとかいうどろどろな恋愛ものを見ていたので、今回ももちろんそんな感じなんだろうと高を括ったのがそもそもの間違いだったのだ。DVDの表紙さえ見ていれば気付けたであろう過失に、この時の謙也は気付くことは出来なかった。



「…は?今なんて?」
「せやから、…もう思い出したくもないわあんなの!!」

侑士が一緒に見ようと言ったDVDは恋愛ものではあったものの、謙也が想像していたものとは程遠いものだった。謙也の頭の中に未だ停滞するそれは、ほぼトラウマと化しつつある。もう二度と侑士とDVDは見るまい。見るとしても絶対に、表紙だけは確認しようと心に決めた。

「…まぁ、従兄弟がアッチの趣味やったっていうのはその…ご愁傷様、」
「それは薄々知っとってん。アイツが男に色目使うとるのも知っとったし、昔男に襲われたことがあるのも知っとるけどな…」
「おい謙也、それ結構衝撃的っちゅーか、学校で言ってもええ事か?」
「でも流石にモノホン見せられたら吐くっちゅーねん!!吐いたわ!!せめて綺麗系な男相手やったらまだ良かったのに、なんであんな筋骨隆々な……おえっ、」
「け、謙也!?大丈夫かお前顔色悪ぅなっとるやん!!」
「思い出したら気分悪くなってきた…、げぇ、ちょっとトイレ行って来るわ…」

ダメだ、侑士のDVDのせいで今日はもう頑張れる気がしない。今だったら多分金ちゃんに早食い競争負ける気がする。それは、浪速のスピードスターの名に賭けても絶対に阻止しなければなるまい。ならばとりあえず今すべきことは。

「ーーーー侑士の、ど阿呆!!!!」

次会ったら覚えとけよと悪態をつきながら、謙也は学校一のスピードを駆使してトイレへと直行した。


***

謙也の去った教室に、一人残された白石はふと、謙也の携帯が置きっぱなしであることに気付いた。それを自然な動きで手に取った白石は、携帯の着信履歴からある人物を探す。昨日の着信履歴の中に、その人物はいた。
白石はその名前をじっと見つめていたが、数秒見つめた後、その人物に電話をした。どうしても白石には、彼に言いたいことがあったのだ。2コールほどで相手に繋がった。

『どないしたんや謙也』

当たり前だが相手は謙也の携帯から電話がかかってきたので、誰だって謙也だと思うだろう。白石は相手に名を名乗ることもなく、先程までの深刻そうな顔が嘘のように晴れやかな少々興奮気味で、彼に言った。

「自分謙也にガチホモのDVD見せたらしいやん、でかした!!ホンマ良くやってくれたわありがとうな!!」
『は?自分どちらさん?』
「あの謙也の本気で嫌そうな顔!!ホンマエクスタシー感じるわぁ…、今思い出してトイレにこもっとるんやけどな、もうホンマに、ホンマにびんっびんにエクスタシー感じまくっとるわ俺!!」
『…誰かよう分からんけど自分が危ないやつなのは良く分かった』
「これからもいっぱい見したってな!んでトラウマにさらにトラウマ刷り込んで段々と『あれ…前は死ぬほど嫌いやったのに、いつの間にか胸がどきどきする…これってまさか!!』みたいな展開になってくれると俺がとっても嬉しい」
『謙也からしたら悪夢のような日々やなぁ』
「っちゅーか自分どんなDVD見せたん?地味に気になるんやけど」
『危ない奴に教えてええんか正直考えもんやけど…夏の運動会みたいなちょっとえぐい系のヤツ。謙也見たくないなら見なきゃいいのに結局全部最後まで見よるからトラウマになるんやで?』
「ええわぁ…次はもっとエグイヤツよろしくな」
『自分鬼畜やなぁ…ええよ。次は表紙に細工せなあかんけど』
「うん、頼むで!!ほなな!」

ぶつん。と回線を切って謙也の携帯を置いた理由は一つ。謙也がそろそろ帰ってくる頃合いだからだ。その間に白石は先程の興奮を抑えて平常心を取り戻し、さも真剣に宿題をやってましたという風に見せかけるためにシャーペンを握った。


→白石初書きだっていうのに、(侑士先生にもいたのはすっかり忘れてた)彼をこんなんにして良かったのだろうか…。友人と喋ってたらこんなイメージで固定されてしまったので、謙也くんはどこまでも可哀想な人ですホントごめんなさい。







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