短編 2 | ナノ

そんな顔じゃ靡かないわ

ユウ君は覚えてないかもしれないけど、アタシがユウ君と初めて出会った場所は体育館でもなければテニスコートでもないのよ。そう言ったらユウ君は目をまんまるにして、頭の中で必死に思い出そうとしてる。でもきっと見つからへんよ、だってあの時のアタシ達、今と全然違っていたから。


***

アタシがユウ君と初めて出会ったのは、小学生ん時。塾の帰り道やった。遅い時間に一人で帰るんは危ないって知っとったけど、親が迎えに来てくれる訳やないから仕方無くな。電灯がぽつぽつと点いた、薄暗い道を歩いとったアタシは、柄の悪そうな男の子んたに囲まれてしもた。つけられとんのは知っとったけどなぁ、あーめんどい。
こういう時、金を渡せば事態が解決することはよく知っている。問題は、金ヅルやと思われて何度も繰り返しカツアゲされるかもしれへんことやね。でもはよう帰りたいねんよ、アタシは。財布を出そうか止めようか、無駄に賢い頭でぐるぐる考えているともう一人誰かがこっちに来おった。げ、マジかいめんどいの増えてまうやないの。あの人相からしたらこいつらの仲間にしか見えへんかったから、アタシは最初そう思った。けど、違った。
アタシと偶然目が合った人相の悪い男の子は、何やえらいスピードでこっちに走ってきた。怖い怖い、今日はついてないわぁなんてぼんやり頭ん中で思った時やった。

「塾帰りのヤツにカツアゲすんなやこのど阿呆!!」

どかっ。漫画にある俗に言う『飛び蹴り』ってやつやんこれ。とりあえずこの状況は何なんかよく分からんけど、肝っ玉の小さかった柄悪い男の子たちは一斉に逃げ出した。一人置いてかれてるけども。何かすっごく怒られとるんやけど。

「カツアゲすんならさも親が金持ちで頭悪そうな将来ちゃらんぽらんなヤツにせえ!塾行っとるヤツにタカんなや!」

ちょ、男の子もう気絶しとらん?大丈夫やの!?見るに見かねて声をかけてしまった。すると人相の悪い男の子は、アタシを見ると即座に謝った。あ、この子ええ子やん。

「ホンマにすまんかったな、大丈夫か?ケガとかしとらん?お金は無事か?」
「あ、あぁ、平気やよ。ありがとう…」
「ええってそんなん!俺はただああいうのが我慢出来ひんだけやから!じゃ!!」

何やろ、すっごい爽やかに、人相悪い男の子はのびてる男の子を掴んで颯爽とこの場を去った。思わずときめいたんは、最近読んだ少女漫画によう似とったからやと思う。姉ちゃんありがとうな。


***

まぁそんな話をアタシがユウ君にする訳がないので、慌てふためいているユウ君には悪いけどアタシはにっこり笑うだけにする。あの時のユウ君格好良かったなぁって思い出す度に思うんだけど、ユウ君はあんな感じになることはもうないのかもしれない。あぁでもアタシがまた襲われてたら助けてくれるんだろう。

「俺にはよう分からんけど、小春が覚えとってくれるんならそれでええなぁ。こはる〜、」
「はいはい」

悶々と難しい顔で考えてたユウ君は、アタシの顔を見てそう言うと抱きついてきたので軽く避ける。ぴゃ、と一気に涙目になったユウ君には、あの頃の面影は一つもない。

「(アタシ、もしかしたら格好良いユウ君が好きなのかしらね)」

あの時のときめきはもうないけれど。それでも嫌じゃないこの気持ちは、はてさて何と呼ぶのだろう。


→ゆうこは。書いてませんけど昔のユウ君はヤンキーさんです。だからあんなに口調が雑なのかなって考えてました。微妙にすれ違うゆうこは可愛いです。








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