短編 2 | ナノ

追憶

「ゆっきむっらくーん!」

後ろから猛スピードで何かが走ってきたのは気配で分かったから、俺は歩く足を止めた。直後に来る衝撃が思ったよりも大きくて、ふらりと少し身体が揺れたけど気にしない。

「おっはよ!」
「朝から元気だね、ブン太は」

俺に断りも無くぶつかって来た本人は、謝罪を言うことなく俺の隣に来る。そして、当たり前のように二人一緒に歩き出した。空気が冷たい。

「なぁ幸村君、今日ヒマ?」
「急になんだい?」
「いやな、幸村君がヒマだったらさ、一緒にケーキバイキング食いに行こうって誘おうと思って」

彼が財布から取り出したのはケーキ屋のバイキング無料券。お前どれだけそこのケーキ食ったの?って一番最初に思ったけど言わなかった。ブン太にとって愚問な発言だと気付いたから。あとそれよりも気になることを見つけたから。

「ジャッカルじゃないんだ、」
「だってジャッカルはいつも一緒に行ってるだろぃ。たまには幸村君と行きてぇって思うじゃん」
「可愛いこと言うね」
「…で、行くの?行かねぇの?」

俺の発言が恥ずかしかったのか気に入らなかったのかは知らないが、(多分前者)ふいとさっきまで俺を穴が開きそうなほど見つめてたというのに急にそっぽを向いてしまった。でも聞くことには聞くんだね。

「そうだね、特に用事も無いし一緒に行こうか」
「ホント!?よっしゃ、じゃ、決まりだな!」

ぱあああと表情が一変する。この子分かりやすいな。何故わざわざ俺を誘ったのかは具体的には分からなかったけど、ブン太のことは嫌いじゃないし良いか、とぼんやり思いながら学校までの道中を一緒に歩いた。



***

「そんなこともあったなぁ…」
「おじいさんみたいだよ、それ」
「ちょっと昔を振り返っただけだろぃ」
「昔ってあれ俺の誕生日だったからそんなに時間経ってないじゃないか」
「…大体、想い出話をしたのは幸村じゃん。何かあった?」
「何かあった?って…ブン太は今日が何の日か覚えてないのかい?」
「え?何かあったっけ」
「今日はお前の誕生日だろ」

かつん、とブン太の持ってたフォークが皿に当たる音が響く。もうお皿にケーキは残ってないってば。さっきから何回それやるの?

「…あれ?そうだったっけ…、」
「マジボケだったのかい?驚いた、まだ二十歳にもなってないのにもう…」
「何だよその顔!!仕方ねぇだろ今日家族に会ってねぇんだから!あー…マジで気付かなかった…」
「俺は気付いてたよ。だから想い出話をしたんじゃないか」
「うっわー…何かすっげぇ悪いことした気分…」

あとでケータイの履歴見とこう、と独り言を呟いたブン太の声を聴きながら、さて彼はいつになったらわざわざ俺が今日この日に彼を家に泊めてさっきからずっと思い出話をしているのか気付くんだろうと思った。っていうか後で良いんだ、結構大事なんじゃないのかそういうのって。

「えー…そうだなぁ…何かする?」
「何かって?」
「…俺の誕生日は祝ってくれない気なのかな幸村君は」
「ははは、まさか。誕生日はこれからだよ」

俺とお前が出会って培ってきたもの全てを、今ここで思い出そうじゃないか。
出来るだけ自然に言った言葉を、彼がどう感じたのかは知らないけれど。何やら百面相をし出したブン太を見て、今日は色々と楽しめそうだと一人ほくそ笑んだ。


→書いた手前信じてくれないと思うけど、最初これちゃんとプラス的な小説だったんで、すよ。幸+ブンって良いですよねって話をだね…しようと思ってだね…(ごにょごにょ)








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