短編 2 | ナノ

コンマ一ミリの可能性

世界が終わるまで、あと数時間。きっと遅く感じるのも速く感じるのも自分次第なのだろう。自分にとってそれはあっという間の出来事だった。明日で世界は終わるのだとTVでやってて、最初はそんなこと信じなかったのに。急に、もしそれが本当だったらどうしようと不安になった。他のチャンネルにしても同じ事しか言わないし、どっきりにしてはやり過ぎだったから。俺は遠くにいる従兄弟に連絡を取ろうとしたけれど、回線は通じなかった。多分みんな考えてる事は同じで、誰かに「違う」とはっきり言って欲しくてひっきりなしに連絡をしているのだろう。こういう時は、メールよりも声が聞きたくなるから。

もし、世界が終わってしまうなら。最期に自分はどうしたいだろうか。答えはすぐにひらめいて、どうせ明日で何もかも終わってしまうのならとすべてをかなぐり捨てて勢いだけで駆け出した。無理だと思うことは何時だって出来るけれど。それでも俺は、最期は彼の隣にいたいと思ったから。


***


幸運にも電車は止まっていなかった。運転手さんは世界が終わるまで運転し続けると笑顔で言っていた。それが自分の望んだ『最期』だから、悔いは無いのだと。俺も、そうありたいと思った。どうせ明日で終わるなら、悔いの残らない人生だったと思いたい。最期は笑顔で彼に「お前とおって俺の人生幸せやった」と言いたいから。

彼の家に着いてベルを鳴らすと、侑士はいつもと何ら変わらぬ格好で現れた。誰かと連絡中だったようで、耳に携帯を当てながら、俺が大阪から東京までやってきたことに目を見開いて驚いていた。そして、多分収拾もつかぬ間に手早く会話を中断させて、あっさり携帯をポケットにしまった。誰と話していたかは分からないが、彼は電話の相手よりも俺を優先してくれたことはよく分かったので嬉しかった。彼が口を開くより前に、俺は侑士に抱き着いた。それだけでもう、幸せだったけれど。でも諦められないことがひとつだけあった俺は、侑士の手をぎゅっと握った。

「明日で世界が終わるやなんて嫌や。侑士、一緒に探そう。世界が終わらんでもええ方法を」

そんなこと出来るなら、もっともっと早く誰かがやってるだろうと思いはしたが。それでも諦めることは出来なかった。だってまだ俺たちは中学三年生で、大人にもなっていないのに。やりたいことはたくさんあるのに、急に終わるなんて言われても困るではないか。最後の最後まで、足掻いて足掻き苦しんでも、絶対に諦めたりはしないと心に誓える。
侑士はぽかんとしていたが、言葉の意味を理解した後ゆるやかに微笑んで、「しゃあないなぁ」っていつものような声音で囁いた。





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