短編 2 | ナノ

渇望欲求

「同情でやったら、自分は俺とセックスしてくれるん?」


ソファに寝転んでいた忍足がふと呟いた声は、霧散してあっさりと消え去る。その事にあまり頓着しない忍足は、そっと瞳を閉じた。答えなど求めてはいない。欲しかった訳でもない。ただの気まぐれに優しくしてくれたのだと信じたい。乱暴に扱われた後に優しくされて、若干荒んだ心が揺らいだだけだ。何も考えないように眠りにつこうとした忍足は、そっと触れた唇の感触に身体を強張らせた。熱を持ったそれは確かに、誰かの唇だったから。

「―、」
「泣きたい時は泣けばいい。わざわざあんなことしなくたって、お前はもう泣き方が分かるだろう」

目を開こうとしたが彼の手がそれを塞ぐ。温かい手の平。思わず手を伸ばして縋ろうとした己の手を、慌てて引っ込めた。彼に縋りついたって、意味は無い。彼の優しさは数多の人間の為のものであって、忍足一人が独占しても良いものではないから。

「…泣き方なんて、とうの昔に忘れてしもたわ」

自身に言い聞かせるために放った言葉は聞き取りにくく、誰が聞いたって泣いているようにしか聞こえない声だった。




(やさしくしないで。そうじゃないといきぐるしくてしんでしまうから)


閉じた目から溢れた涙は、長い指がそっと拭ってくれた。


→跡忍になりそうでならない…っ。跡部の優しさに怯える忍足。でも救われている忍足。強がったって結局求めているのに変わりはない。

跡部様のキスは親愛のキスだと思ってるので、×にはしなかったよ。






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テーマ「人外ファンタジー」
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