短編 2 | ナノ

優しさの代償

優しい。怖い。怖い。こわいこわいこわい怖い?何故?何故ってそんな、それは、どうして?何故怖いの何故そんなに怖がってるの怖いのただ身体が震えて頭真っ白になるから怖いしまるで地に足ついてないみたいで怖くて、怖くてただ怖いのねぇ誰か、

だれか、

「…忍足、」

だれかの、こえがして、

「忍足?大丈夫かお前、」

すくわれる。だれかわからないけど、きっと。

くらり、揺れて意識が落ちる。誰かの叫ぶ声が聞こえたような気が、した。


***

彼の内情を知っている。生徒会長たるもの、生徒全員の略歴を多少なりとも理解しておかねばと執事や樺地などに言って色々調べさせた中に、彼の内情も含まれていたから。
慈郎は俺が調べた略歴(個人情報、とも言う)をいらないと言った。普段あんなにも簡単に自分の欲しいものを頼んでくる男が、初めて「いらない」と言ったのだ。「ちゃんと聞いてくるからだいじょうぶだよ、」と笑いながら、「だってそっちの方がオシタリと会話出来るしね!!」と言った時には、思わず感動してしまった。確かにその通りだ。百聞は一見にしかず。
まぁそんなことは置いておくとして。彼は今保健室のベッドの上で静かに眠っている。やや青白い顔は恐ろしいほどの無表情で、服の隙間からは情痕の跡が覗いている。色っぽいを超えて痛々しくもあるそれは、シャツのボタンを開けた時に露出した。しなきゃ良かったかもしれないとも思ったが、一番上までボタンを閉めていると流石に息が苦しそうに見えたので。

―さて、どうしようか。彼が倒れたことは後に慈郎にも伝わるだろう。そうなったら慈郎はすごく泣きそう顔をして、寝ている彼の元から一時も離れない気がする。慈郎は難しい言葉は分からないのに、相手が無自覚に欲しているものを与える傾向にある。俺も、貰った事があるから分かる。彼は凡人には理解出来ないものに誰よりも早く気が付いて、そっと物ではないモノを与える。それはキモチであったり、ぬくもりであったり。そのとき初めて、慈郎という人間のすばらしさを知るのだ。忍足はまだ、そのことを理解してはいないようだけど。

慈郎が来れば看病(といっても特にすることは無いのだが)する人間がいるのでこの場から去ることが出来るのだが、今はいないのでここから動くことは出来なかった。ここにいなくてはいけない明確な理由は無いが、何となく、目覚めた時にそばに誰かがいた方が良いと思った。彼が倒れることに気付いたのは俺だったし、倒れる前に異変に気付いたのも俺だった。その時一瞬だけ見た表情が、やけに胸に引っかかったままだった。


→跡部様は優しいと思うんですよ。だから忍足にも皆にも優しいと良いなぁ。すごく続きがありそうな話だなぁと書いて思った。







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