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20121004誕

跡部景吾生誕祭記念小説。

パジャマパーティがしたいと言い出したのは確か慈郎だった。水曜日で部活が休みだったので、誰も特に文句も言わず「じゃあ家にパジャマ取って来ないとな」と宍戸が言った言葉に頷いて、帰りは全員の家へ跡部が自身の車(無駄に長いアレである)を走らせた。十月三日の水曜日。いつもと大して変わりのない日の出来事である。

もちろん場所は跡部の家で、早めの夕食を頂いてからさっさと風呂に入って七時にはもう全員パジャマに着替えていた。無駄に広い一室に布団を敷き詰めて(どこにそんな布団があんの?と全員が気になったが、「跡部んちだから」ですべてが解決した)ごろり寝転がったり飛び跳ねたり本を取り出したり談笑したり。跡部は全体を見渡しながらその光景を微笑ましく見つめていた。あと少しかもしれない情景を目に焼き付けるように。

あと少しといえば確かに少ししかないが、けれどまだ終わりではないし永遠の別れでもない。ただ、自分達が一つ上へ行くだけだ。中学と高校で別れたところでまたこうして集まるのだろう。頭では理解しているつもりだが、最近こうして遠巻きから辺りを見つめることが多くなった気がする。楽しいこの時間が永遠であれば良いと望みながら、それはきっと無理であることも理解している。それでも、彼らの心の中に永遠に在り続けてくれることを願う。


「跡部、まるでお父さんみたいな顔してるよ」


くすっ、と小さく微笑んだ萩之介はさっきまで子供のお守りみたいなことをしていたはずだが、どうやらそのお守りを全部心を閉ざして読書をしていた忍足に押し付けたようだ。岳人はどうやら日吉の元へ行ったらしいが、覚醒した慈郎は停滞したらしくかなり手を焼いているように見える。まぁ、大丈夫だろうが。あの二人は性格が正反対だが結構仲は良いので問題はないだろう。問題はない。あるのは、さっきの彼の台詞だ。

「萩之介」
「うん、なぁに?」
「誰がお父さんだ」
「跡部」
「…俺はまだ子を作った覚えは…」
「そうじゃなくて、皆を見る目がすごく優しかったよ」
「そっちか」
「当たり前でしょ?」

じゃあお前はお母さんか、と言おうか悩んだが止めておいた。確かにこの仲間内は家族のようなものかもしれない。でも、家族のように親がいて子供がいてとかではなくて、皆平等に同じ位置にいたい。こいつらに敬って欲しいとかは思わないから。

「ねぇ跡部」
「何だ」
「いつか離れ離れになってもね、跡部や慈郎が召集をかければすぐに集まると思うよ」
「俺はともかく慈郎もか」
「うん。だってあの子はムードメーカーだもの。彼が皆に会いたいって言えばすぐに集まるでしょ」
「そうだな…」

忍足の上に馬乗りになって本と眼鏡を強奪し遠くの隅へ追いやってきゃっきゃ言いながら忍足と戯れてる慈郎へと視線をやると、気付いたらしい慈郎がにっこにこの笑顔を返した。ここからでは忍足の顔は見えないが大丈夫なのかと少し気になったが、特に抵抗する素振りが見えないので手は出さないことにする。(迂闊に手を出すと巻き込まれるのであまり手を出すことはしない)ちなみに隣の萩之介はにこにこ笑っている。助けるなどという選択肢は皆無だろう。

「…自分らに俺を心配するっちゅー選択肢はないんかい…」
「だって二人とも楽しそうなんだもん」
「抵抗してるようには見えなかったからな」
「そりゃ両手両足拘束されとったらな!出来る訳ないやろ!?」
「諦めが悪いよ忍足ー、さっさと俺にちゅーされちゃいなって」
「男とちゅーして何が楽しいねん!!」
「少なくとも俺『が』楽しい。Eーじゃん減るもんじゃないし」
「ええ訳ないやろ!!!」
「ちょっと前から思ってたけど、慈郎って忍足のこと好きだよねー」
「うん、そだね。だから邪魔しないでね☆」
「何やねんそのそうよく分からん星は!!」
「…とりあえず、これ以上二人に関わるのは止めておこうかな」
「そうだな」
「あ、こら、自分ら何逃げようとしとんねん!!この卑怯者ー!!」

…まぁあの二人は置いておいて。少し離れたことろでは鳳と宍戸がやけに甘ったるい空気を醸し出しながらストレッチみたいなことをしていて、日吉と樺地が別のところで話し合ってたりしている。来年の部を引っ張るのは彼らなので作戦会議のようなことでもしているのだろうかと思ったが、時折聞こえてくるのは「下克上」と「ウス」って本当に作戦会議なのか。ちなみに岳人は暇なのか日吉の膝枕→ごろごろ→日吉の背中にもたれかかる→日吉に邪魔だと怒られる→怒る(逆切れ)→樺地の肩に乗る(肩車状態)←今此処。…かなり暇だったことが良く分かる動きである。一緒にその動きを見ていた萩之介がふと何かを思い出したように尋ねた。

「ねぇ跡部」
「今度は何だ」
「今何時?」
「は?ちょっと待てよ、今は…」

部屋の時計を見れば、時間はあっという間に過ぎていたことを思い知らされる。十一時五十九分。そろそろ寝なくてはいけないな、とゆるり立ち上がろうとしたところを、萩之介が服の裾を引っ張ってわざと座らせた。何をする、と言おうと口を開きかけたところで、時計の針がかちり、と音を立てた。




『跡部、お誕生日おめでとう!!!!!!!!!』


クラッカーの音×8と全員の声が部屋中に響く。頭上から降り注いだのは色とりどりの紙吹雪。思わず目をきょとんと丸くした跡部に慈郎が満面の笑みを贈る。

「あのさ、跡部の誕生日って確か両親帰ってくるじゃん?だから当日の夜は家族団欒したいかなって思って、じゃあ俺達が跡部祝えるのっていつだろうって思ったら三日の夜から四日の朝までかなって思って!」
「…つまり、俺たちが一番最初に『おめでとう』言おう思てな、わざとパジャマパーティ開いたんよ」
「明日学校あるから夜更かしはそんなに出来ねぇけどさ、ちょこっとくらいは、な?」
「折角の誕生日ですもんね。俺たちに出来る精一杯のことがしたかったんです」
「今日くらいは仕方ないでしょう?」
「じゃ、とっととおっぱじめようぜ!!」
「ちょっと待て、お前ら一体何をするつもりで…ぶっ」
「パジャマパーティと言えばこれだろ!枕投げ大会!!」
「宍戸やるねー主役の顔面に枕当てるなんて」
「てめぇ…覚悟は出来てんだろーな…あーん?」
「やべ、跡部怒らせちまった!本気で行くぜ!!」
「はいっ!宍戸さん、援護しま…うわっ!!」
「流石跡部、枕投げるの早いわぁ…眼鏡外しといて正解かもしれんわ」
「樺ちゃんも本気で投げてEーんだからね!目指すは跡部の顔面!」
「ウ、ウス」
「いつの間に俺の顔は的になってんだよ!」


(きっといつまでも忘れない想い出と成り得るのでしょうね)







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