我が純潔を君に捧ぐ1/12
幸せだった。貴方と過ごした日々は、色あせることなくずっと今もこの胸の中にある。
最後に一つだけ言った我儘を、貴方は笑って受け入れてくれた。いけない事だと分かっていたけれど、それでも最期に欲しかったもの。ありがとう、本当に、ありがとう。どれだけ貴方に告げたって、この想いは溢れて止まる事はない。それでも、何度も頭の中で復唱した。ありがとう。貴方に出会う事が出来て、俺はとても幸せでした。
最期に見た貴方の顔。優しくて、幸せそうな貴方の表情が、今も未だ目瞼の裏に焼きついて離れない。嬉しかった。貴方と出会わなければ、こんな気持ち知る事もなかった。ありがとう。心が、目が、じんわりと熱くなって、頬から想いが零れ落ちた。
愛している。いつまでも、どれだけ遠く離れていても、俺は貴方を愛しているから。
実家には帰らない。もう、この気持ちを持っては帰れない。二度と貴方以外の人を愛することなんか出来ない。それなら、俺がするのは一つだけ。
ひたりと首筋に当てた冷たい刃先。大丈夫、忘れたりなんかしない。そんなこと、出来ないから。
皮膚をどれだけ切り裂いても、どれだけ己の血が滴り落ちても、貴方との記憶を忘れるなんて出来やしないから。
首筋に、手首に、次第に床に赤が侵食し、景色が眩んでも。
俺は貴方を愛している。いつまでも、たとえこの命尽き果てようとも。
(もし、ゆるされるなら、来世はあなたとしあわせに、)
深紅に染まった部屋の中、俺は最期に微笑んだ。
→はじまりはここから。赤の記憶。望んではいけなかったささやかな想い。
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