長編小説 | ナノ


02 子猫
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『センセイ』はおれと同じ髪の色をしていた。目の色も同じ。それぞれのパーツが、どこか『センセイ』に酷似していることを知っていた。まるで模造品のように。そして『センセイ』はいつも、おれに向かってこう言うのだ。

『ええか。自分は俺の希望やさかい、幸せになるんやよ』

―おれは既に、自分は『センセイ』の代用品であることを悟っていた。


***


ふわふわのベッドと、美味しい食事。スプーンを使うことには慣れていたけれど、ただ掬って口に運ぶだけなのに、ぼろぼろとこぼれ落ちていく。それはきっと、おれの目の前でさっきからずっと分厚い本をすごく真剣な目で見ているけーごを見てるから。すっごくきれいな顔をしているけーごは、昨日おれの『親』になった。ずっとそばにいるって言ってくれた。『センセイ』はそういえば、一度もずっとそばにいるとは言わなかったし、毎日会いに来てくれる訳でもなかったからちょっと不思議な気持ちでいる。『親』というのは、ずっと一緒にいるものなのだろうか。もしそうだとしたら、『センセイ』はおれの何だったのだろう。

「…おい、零してるぞ」
「…けーご、きいてもええ?」
「構わんが、まず飯を食ってからにしろ」
「わかった」

もぐもぐ。けーご何読んでるんだろう。『センセイ』はおれの何なのだろう。聞きたいことはきっとたくさんあって、すぐにでもけーごに聞きたくてしょうがないのだけど、けーごがこれ全部食べてからって言うから食べる。昨日は何も食べてなかったから、おなかがすいてるし。食べないと、エネルギー確保出来なくて動けなくなって死んじゃう。三大欲求の食欲は早めに満たしておいた方が良いって『センセイ』が昔言ってた。言ってたけど、『センセイ』は食べることに頓着してなくて、固形物を食べてる姿はあんまり見た事が無い。大体栄養剤とかいうのをちゅーちゅー吸ってて、「それっておいしいの?」って聞いたら「そう美味くはないで」って言ってた。もしかしたら「おいしい」って答えたらおれに取られちゃうと思ったのかもしれないけど、好き好んで飲んでる感じではなかったので多分美味しくないんだろうなと思った。
どうせ食べるのなら、美味しいものを食べた方が良いと思う。けーごの専属のシェフって人が作ってくれた料理はすっごく美味しくて、『センセイ』にも食べてもらいたいなと思った。もう会えないけど。だって『センセイ』と最後に会った時、『センセイ』はいつもみたいに「またな」じゃなくて「さよなら」って言ったから。さよならは別れの言葉だって、教えてくれたのは『センセイ』だったから。

「どうした?好きじゃないモンでも入ってたか?」
「ううん、ちゃうねん。なんでもあらへんねん。おいしいねんでこれ」
「知ってる。じゃあ何故お前は泣いてるんだ」
「…なんで、」

ぼろぼろ、こぼれてく。何でだろう。何でこんなに悲しいのだろう。分からなくて、視界がじわりじわりと歪んでいく。

「…なんで、やろな…?わからん、」

もう二度と『センセイ』に会えないことが悲しいのか、苦しいのか、分からない自分がいる。でももっと答えは単純な気もする。目の前の美味しいご飯を、ただあの人に食べて欲しかっただけなのかもしれない。だめだ、頭の中がごちゃごちゃして分からない。どうしよう、落ち着かなきゃ、だめなのに。ぼろぼろ、何で、止まらないの。

「…けーごぉ、」
「まずは落ち着け。ほら、来い」
「…、っ、ふぇ、」

けーごが手を広げてくれたから、おれは昨日みたいにけーごに抱きついた。昨日はけーごの方から抱き締めてくれたけど、今日はおれの方から。ふわりと香った匂いはけーごので、何だかすごく安心した。そういえば『センセイ』も、おれが不安な時抱き締めてくれた気がする。ぎゅっとして、安心して眠ってしまって、起きた時にはもういなかった。それがちょっぴり寂しくて、でもそのことを『センセイ』に言う事はなかった。だって『センセイ』は忙しくて、おれに会いに来るのも時間の空いた僅かな時間だったから、悲しんでいるよりも笑っていたくて。だから出来るだけ、笑って。

「…大丈夫だ。俺はここにいる」
「…本当?」
「あぁ。俺は嘘を付かない。絶対にだ」
「ほっかぁ…」

目から熱い涙がこぼれ落ちて。ゆっくりと目を閉じる。泣いたからか急に眠気が襲ってきたせいで自力で立っていられなくなったおれはけーごに体重を預けてそのまま意識を手放した。



→絶対私この話子侑士が猫耳尻尾付きなこと忘れてる…(汗)と読み返して思った。本当はきっと尻尾がゆらゆら耳がぴょこぴょこしててしゅんとすると耳がぺたんとなったりしてて可愛いのだと脳内で変換しておいて下さい^^;(全部丸投げ)

   


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