お題小説 | ナノ


拍手文その三
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秋のじろ忍

ゆうちゃんは『天才』だけど、とても不器用な人だと思う。何でも出来るのに、冷たくなった自分の手の温め方も知らないなんて。急激に冷えたせいで一気に体温を奪われたらしいゆうちゃんの手は、さっきからたまにぴくりと動くけれどいつもより柔軟に動いてはいない。さっきからずっと見ていたおれは知ってる。帰る道の景色は見てなかったから覚えてないけど。
ゆうちゃんの家には大人の人はあんまりいないらしい。お母さんはセンギョーシュフって言ってたけど、ご飯も作るって言ってたけど、聞くのはおねえちゃんの話ばかりだ。一緒に買い物に付き合わされたとか。お買い物以外はゆうちゃんは基本一人で行動するらしくて、行く先で誰かが捕まえられればめっけもんやと言ってたけどそれはどういう意味なんだろう。上手くいくとお金が浮くらしい。そんなばったり学校以外でゆうちゃんに会うことなんてないからおれには分からない。

―おれの手は幸運なことに温かい。ずっと眠たいからかな。それともちょっと風が冷たかったからポケットの中に手をつっこんだからかな。手をにぎにぎしてみる。うん、やわらかくてあったかい。これならきっと大丈夫。

「ん、」
「……のわっ!」

ひんやり。やっぱ冷たいゆうちゃんの手。まだ秋なのに、こんなに冷たくなるんだなぁ。真冬とかもっと冷たいのかな。その時おれの手は温かいままかな。あったかいとゆうちゃんの手を温められるからホッカイロ余分に持っていようかな。そのままホッカイロ渡した方がきっとゆうちゃんにとっても楽だと思うけど、人肌よりあったかいものはないから絶対に渡さない。そんなものじゃ、ゆうちゃんをあたためることは出来ないよ。おれはそう思う。



「つめたいね」
「じゃあ手放しぃ。冷えるで」
「ゆうちゃんはあったかいでしょ?」
「…そうやね。あったかいわぁ」
「良かった」
「…無理せんでもええよ。寒かったら放しても」
「やだ」
「さよか…俺はええけど…」
「だいじょーぶだよ。おれそんな寒がりじゃないもん」
「…ありがとうな、」
「うん」


→手を繋ぐって行為が好きです。熱くても手汗かいても構わずぎゅっと恋人繋ぎ。放さないよの意思表示。断ち切れぬ鎖。ほんの些細な風景を切り取って小説にしたい。きっと最初はぎこちなく。


 


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テーマ「人外ファンタジー」
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