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触れたら離れるだけの、生温い口付けはあまり好きではない。挨拶程度の軽いものならばともかく、こうやって何度も何度も唇同士重ねるだけなのは楽しくないというか面白くないというか。どうせなら唇を舐めて、口の中を蹂躙してくれた方が良い。思考回路がどろどろに溶けて、何も考えられなくなる位に。
「…じろちゃん、何しとるの?」
「うん?えっとね、ちゅう?」
「そりゃあそうやろうけど…」
聞きたいのはそこではなくて、その行為の理由なのだが。慈郎は唇をちゅっちゅくっつけながらはにかんでいる。舌を出したら深くまで口付けてくれるだろうか。どっちかと言うとこの行為を楽しんでいるように見えるが。
「俺はもっと大人なキスがしたいわぁ」
「べろちゅーのこと?たしかにゆうちゃんの口の中をぺろぺろするのすきだけど、おれふつうのちゅうもすきだよ」
「俺はそんなに好きやないけどな」
「そうなの?」
慈郎は動きを止めて、きょとんとした目で俺を見る。大きな瞳に上目遣いで見つめられるというのは、かなり可愛らしくて良いものだと思う。思ったより長い睫毛も、やわらかな頬も。
「うーん…じゃあ、ゆうちゃんにもすきになってほしいな、」
そう言って頬に口付ける慈郎。唇ではなく瞼や耳や鼻先や額や顎やとにかく顔全体に余すところなく慈郎の唇が触れて、あっさりと離れていく。触れたところから慈郎の熱を移されたかのように顔がじんわりと熱くなっているのを肯定したくはなかったので、「ゆうちゃんかわいい、」とふにゃけた笑みを浮かべながら言った彼の言葉は聞かなかったフリをした。
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