お題小説 | ナノ


07犬(+鳳宍)
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もう少し従順だったら良かったのに。そうしたら、歯向かうことなどなかったでしょう?
そんな事有り得ないと分かっていながらも、目の前にある事実を肯定したくなくて、盲目にただそんなことを思った。


***

「自分とこの犬はさぞ従順なんやろうねぇ」

嫌味たっぷりで吐いた皮肉に、ぴくり眉を動かしたのは熱血漢の男。犬の飼い主。わなわなと震え出す飼い主を、犬が宥める光景はとても愉快だった。(一応関わると面倒なこと位理解しているのだろう。短気のクセに我慢する姿もまた滑稽だという事は理解していないらしい)

「…その言い方はつまり、自分とこの犬はそうでもないって事か?」

結局我慢が出来なかったらしい。此方を睨みながら、飼い主は尋ねた。

「見たら分かるやろ。それに比べて自分とこはお利口さんなんやね、」

犬の縄張りを越え、彼の領域に侵入する。試合後で体温が上がり、熱くなって首元をだらしなく開けたそこに、するりと冷たい手を差し入れる。びくりと身体を震わせたのは、飼い主も犬も同じだった。

「たったこれだけで満足出来るやなんて、自分とこの犬は謙虚でええなぁ」

そう言って指の腹で撫でたのは、赤くなった鬱血痕の跡。傷だらけの身体に残る所有印の証。それに気付いたのは犬の方が先で、大慌てで飼い主の服のボタンを全部留めた。飼い主は何も理解していない。そりゃそうだろう、わざわざ飼い主の見えないような場所にそれは付けられていたのだから。

「お、忍足先輩、いい加減にしないと怒りますよ」
「そんな顔されても怖ないで。自分結構したたかなんやな」
「しっ、宍戸さんのことは、大事にしたいので!!」
「『は』、ねぇ…。それで満足しとるとは正直俺は思わんけどな」

くすくすと嫌味ったらしくまるで継母のようにあざ笑ってみせると、犬が必死に飼い主を守ろうと大きな身体で強く抱きしめた。飼い主は状況をよく理解していないようで、「苦しい、というか暑いぞ長太郎」と言いながらもがいている。…危機管理能力は大丈夫なのかこの飼い主。

「…忍足先輩」
「目つき変わりよったな。ホントの自分はこっちなんやろ?もうちょっとだけ見してぇな」
「…性格が悪いですよ、」
「褒め言葉やよそれ。ありがとうな」
「褒めてませんよ」

この犬ホンマに飼い主好きなんやろうな。先輩相手に殺気出すヤツなんか初めて見たわ。どないしよう、すっごく愉しい。けどそろそろ時間なんやな、惜しいけど。
試合終了のホイッスルが鳴り、一気に騒がしくなるコート。いやさっきからもずっと騒がしかったけど、本番はこれから。

「ゆーちゃーんっっっ!!!」
「…あー、やっぱり来たかぁ…残念、」

勢い良く此方へ走ってきたもう一匹の犬は、俺に後ろからぶつかるように抱きついてきた。途端に空気が変わる。俺は昨日の情事の影響でなるべく腰に負担をかけないようにしてきたのだが、何か泡になって消えた気がした。ちょ、涙出そう。

「げほ、じろちゃん…もうちょっと優しくしたって、腰動かれへんようになってまうで」
「え?あ、ごめんね!!昨日あんなにやっちゃったから流石につらいよね!ごめんね!いたいのいたいのおれにとんでけー!!」
「いや、それはせんでええけど…」
「でもでも、昨日すっごく楽しくっておれが後先考えずにやっちゃったせいでゆうちゃん試合つらそうだったってあとべに聞いたの!」
「うん、それはバラさんで良かったんやけどな…」
「きすまあくもいっぱいつけちゃったせいでゆうちゃん長袖長ズボンじゃないといられなくなっちゃったのも…」
「わーわー!!!ちょ、違うねんこれは!!体操服忘れただけやから!!ホンマに!」
「えーでもゆうちゃんロッカーにストックいつも置いてあるから忘れたりしな…」
「じーろーちゃん?ちょ、ちょっとええ子やからお兄さんと一緒に部室行こか」
「ぶしつ?何で?あとべの試合見ないの?」
「自分はどうせ寝とるだけやろ!!はよ行くで!!」
「?…わかったー。じゃ、そーゆーことで。あとはよろしくね、宍戸と鳳」

頭に血が上りすぎて、(というか恥ずかしすぎてもう後ろなど見もしなかった)さっさと部室へ頭を冷やしにいったから気付かなかったけれど。俺の犬は俺が放置していった犬と飼い主に軽く手を振っていたらしい。そしてついでにわざわざ一度振り返ってから、射抜くような目でじっと二人を見つめた後、口元に人差し指を当てて微笑んだ、…らしい。(誰から聞いたかとかもう聞かないで欲しい。俺はその後が辛かったのだから)

→犬といえばあそこのバカップルしか思いつかなかったので、初登場?させてみました。ちょたは宍戸さんのためなら何でもすると思う。今回とっても侑士を嫌なヤツにしようとして、やっぱり後半で遊んでしまいました。侑士自体は暗いのに、慈郎が出てくるとすべて台無しになる話が好き過ぎて、侑士可哀想になってきました。ちなみにこの後部室で襲われてます。侑士負けるな!!頑張れ!!(笑)


 


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