お題小説 | ナノ


43窓際
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バスなどの車に乗った時、侑士の位置は大体窓際であることが多い。それは隣が周りと喋りたいやかましいくらい元気な岳人だからというのもあるが、元より侑士は窓際が好きだという理由もあった。外を見ながらただぼんやりとする時間を楽しむことが出来る侑士は、周りと喋らなくても平気だからだ。




侑士と慈郎が付き合うことになったので、岳人は分かりやすいくらいに二人をくっつけようとしていた。それは外見的に、愛する者同士はそばにいた方がいいという岳人の個人的な偏見でもある。だからいつもは侑士の隣に座る岳人は、その位置を慈郎に譲ることにした。どうせ慈郎は寝ているだけだが。
慈郎に席を譲ったら、今度は自分の席が無くなってしまった。いつも慈郎は好き勝手な場所に一人か又は樺地の隣で寝ているのだ。どうしたもんかと悩んでいたら、宍戸が「じゃあ補助席使えば良いんじゃね?」と提案してきたので、宍戸と鳳、日吉と滝が座る席のど真ん中に座ることにした。何だか一人浮いているような気がしたが、考えてはいけない。滝が「ババ抜きしようよ」とトランプを手に持ちながら言ったので、五人で仲良くババ抜きをすることにした。岳人にとって斜め前に座る侑士と慈郎は何も言ってこないから、それぞれ自分の世界に入り込んでいるのだろう。ちなみに二人の一個前の席が跡部と樺地である。一番前の席が好きなのだ、跡部は。

トランプゲームが強いのは滝と侑士だから、侑士のいないメンバーでやれば当たり前のように滝が一番強かった。人の良い鳳と、リアクションですぐに戦況が見破られる岳人はボロ負けで、日吉と宍戸が滝の次を狙って火花を散らせる。フツーの中学生みたいなことをする時間が本当に楽しくて、岳人をはじめ他のメンバーもわいわいがやがやと騒いでいた。

「おいお前ら、そろそろ着くぞ。準備しておけよ」

トランプに集中していた俺達を含む乗客全員に向かって、跡部が言う。俺様のくせに気配りは上手いので、こういうところはやっぱり大勢をまとめるリーダーに相応しいんだろうなと思った。
ちなみにこの言葉は、暗に寝ている慈郎を目的地に着くまでには起こしておけ、と侑士に命じている。その証拠に今まで全く喋らなかった侑士が、「じろちゃん起き、もうすぐやって」と優しく起こしている声が聞こえた。岳人自身も聞いたことがある。帰りのバスなどで、遊び疲れて寝てしまった時とかに。
慈郎の声は聞こえない。つまり爆睡しているのだろう。それでも自分達が起こすより、侑士が起こした方が慈郎の目覚めが早いことを知っているから、誰も侑士に加勢しようとかは思わない。何たって恋人同士なのだ。誰だって、馬に蹴られたくはない。トランプを片付ける滝と日吉、既に二人の世界に入ってしまった鳳と宍戸。やっぱり一人残された岳人は、侑士が慈郎を起こす声を何となく聞いていた。

「じろちゃん、そろそろ起きんと跡部が怒るで?」
「…」
「ジロー?…全くもう、」

しゃあないなぁとため息をつく声(正しくは吐息)がして、それからぴたりと声が止む。あれ?と思ったその時、息を呑む音が聞こえたような気がした。

「岳人、準備しなきゃ駄目だよ」
「…あ、うん。分かってるって」

滝の声で我に返った。バスはいつの間にか止まって、徐々に部員達が立ち上がっていく。補助席を使ってたから早く退かなければいけないことに気付いて、少々手荒に片付けたら日吉に怒られた。それでも気にせずさっさと外へ向かう。ちらっと何気なく侑士の席に目線をやれば、バスに乗った時には開いてなかったジャージが、胸元まで開いていて、ご丁寧に首筋にキスマークが付いていた。

→この話、本当はお題やる前に思いついたネタです。バスの席が隣同士で、忍足の肩に頭を置いて寝てる慈郎の図が可愛いかなと思って。周りに人がいるのにちゃんといちゃいちゃするバカップル。えろお題だけどえろいことはあまりしていないよ!ただ寝起きの慈郎ちゃんに忍足が襲われたってだけだよ!(その言い方はどうなんだろう…)
白じろでもヤンジロでもどっちでも良い様に書きました。だって喋ってないからね。


 


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