食欲に押され
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目の前で肉まんを頬張る女を見つめながら、夏侯惇は呆れて口をぽっかり開けていた。それもその筈で、今女が手にしてるのは5つ目の肉まん。普通は遠慮するものだが、遠慮と言う言葉には程遠い姿を晒して居る。

「良くそんなに食えるな…少しは遠慮しろ」

「夏侯将軍の奢りと聞いたら、食べるしかありませんっ」

鍛錬の後食事に誘いこうして二人で卓を囲む事もしばしばあるが、奢りと聞くと名前は遠慮を知らず満足行くまで食べ続ける。本人曰く鍛錬の後は幾らでも食べられるそうだ。とは言え、小さな体のどこにそんなに入る容量があるのだろうか。夏侯惇は不思議でならない。

「そんなんじゃいつまで経っても嫁の貰い手は現れんだろうな」

「これでもこの前告白されたんですよ?」

不敵な笑みを浮かべながら笑って見せるが、両手に肉まんを持ちながら言う言葉とは思えなかった。

「突然女が現れれば気にする奴も出てくる」

「それって…誰でも良いって事ですか?」

そう言う事だと言いたそうに夏侯惇は小さく笑う。
確かに、男しか居ない場に一人女が混ざる事で多少なりともざわめき立つのは良くある話だ。ましてや戦いの世界、女の影など無かったような場所にぽつんと現れたのだからそう言う事なのだろう。

「で?誰だそいつは」

名前に限って有り得ないと思いながらも、何があるかわからない世の中。告白された事で女として溺れてしまうのでは無いかと夏侯惇は心配になる。
思わず低く問いただすと名前はびくりとしながら背筋を正した。

「実は良く知らない人なんです…」

「ほう?隠すとろくな事にならんぞ?」

「本当に知らない人です、だからちゃんと断りましたし…それに」

今は家族の為、剣を振るわなくちゃいけないので。そんな事考えてられません。
肉まんを持ちながら真面目な顔でそう言う様子を見て、夏侯惇は額を指で軽く弾いた。
国の為に将として戦う身で色恋に浮かれるようなら叱ってやろうかとも思ったが、思いの外名前は自分の道を見つめている者だった。
ただそれだけでは無い別の安堵もあった事も事実で、戸惑いを隠す様に夏侯惇は肉まんを手に取る。

噛り付いて漸く忘れる事が出来る様な気がした。こんな感情を抱く為に名前を副将にした訳では無いのだから。

「あ…夏侯将軍、それ私の肉まんですよ」

食い意地が張ってて落ち着きが無くすぐ問題を起こす。寄りによって何故名前なのだろうか。それだけは一番理解出来ない事だった。

「お前を副将にしたのは間違いだったのかもな…」

小さく呟く声は店内の活気に掻き消され、その喧騒に飲み込まれて行った。

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