そなたの海に火を放つ
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懺滅様より拝借
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名前、名前。どこから湧いて出たのか部屋の窓から関索が顔を覗かせながらにっこり微笑んだ。今丁度着替えの最中で、出来る事なら自重して貰いたいのだが。脱ぎかけた衣服を戻しながら、名前は不機嫌そうに睨む。

「あぁ君は本当に美しいね、花も恥じらうとはこの事だ」

「花ではなく私が今恥ずかしいのですが…」

本来着替えていると気付けば、一度出直すのが常識と言う物。だが関索は謝罪する訳でも、慌てる訳でも無く、普通にそこから顔を出して居た。
やめて下さいと何度注意した事か。この事態を関羽殿が目にしたらどんな顔をされる事か。

風がそよそよと関索の花を揺らして、やがて微笑んでいた関索は軽々と体を持ち上げて部屋に侵入してくる。
この馬鹿野郎を誰かつまみ出してくれ、だが生憎今日は周りに誰も居ない。かと言ってきゃあなどと叫ぶ程可愛くないのだ。

「勝手に侵入すると言う事は…覚悟がおありなのですね」

名前は壁に掛けてある槍を手に持ちながら、見事な槍さばきで関索に迫る。目の前に槍を向けられて居ながら、奴の表情は冷静だった。


「私が本気になれば、名前など簡単に組み敷ける」

「さらっと厭らしい事を言わないで貰えます?関羽殿に言いつけますよ」

「それは困るっ名前に会えなくなったら私は生きて行けない」

嗚呼神様、どうかこの馬鹿野郎に鉄槌を。
手にした槍が全く使い物にならないと知ると、名前は床に投げつけ羽織を取りに隣の部屋に足を向ける。こういう状況なら構わなければ良いのだ。冷静に対処したら問題は無い。
踵を鳴らしながら歩みを進めた名前、関索はその後ろ姿を見つめながら困ったように笑う。


「私の気持ちはいつ名前に届くのだろうね」

切なそうな呟きに、無表情の名前の目元がぴくりと反応した。
関索の伝えたい事は理解しているつもりだ。だが、着替えの最中に顔を出したり、勝手に部屋に上がるのは如何様な物だろう?もっと兄の関平のように男らしく振る舞えないのだろうか。
ため息混じりに名前は手にした羽織りを肩に掛ける。

「いつ…でしょうね、私には分かりません」

「そうか、残念だ」

もう少しまともな振る舞いをしてくれて居たら、この関係も変わって居たのだろうか。他人事のように、考えて居た。


「構わないよ、私は何度でも名前に会いに来る」

「関索殿、私は」


私が名前を愛しいと感じたり、触れたいと願うのは誰にも止められない。邪魔する者が居れば地に伏せる、それだけ君に夢中なんだよ。

振り向いた先、甘すぎて溶けてしまうのでは無いかと心配しそうになる程の言葉。
結局、今日も言いたい事だけ言って人の話も聞かずに関索は帰って行った。


そう言う事じゃなくもっと根本的に。
いつ伝えられるだろうか。それにしても胸の鼓動がやけにうるさい。名前は知らない素振りで、窓から見える景色を虚ろな瞳で見つめた。


そなたの海に火を放つ

(今日も関索が来たの?)
(私、もう星彩と結婚したい)
(関索に怒られるから、無理)
(……)


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