ふたりぼっちなの
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クロエ様より拝借
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空が薄暗くなると、私達はいつも決まった場所へ待ち合わせた。周りからは死角になる建物の影に二人小さく丸まって、何をする訳でも無く種の無い話を広げる。
幼い頃は広く感じた場所も、幾年か経つと窮屈で仕方が無い。それでもこうして二人肩を並べるのは一種の約束のようだった。

「父上から聞いたんだけど、髭は毎日手入れしないとダメなんだって」

「銀屏の父上の髭はとても綺麗だものね…憧れるな」

あんな立派な髭が生えたら、とは思わないがその雄々しさには目を奪われてしまうものがある。幼い頃から、そんな人が隣を歩いてくれたらどれだけ幸せだろうかと想像した。
だが、現実は幼馴染の父。それは絶対に叶う事の無い秘する感情だった。

「将来は父上のような強くて男らしい人と婚儀を上げたいなっ名前は?」

薄暗い視界に瞳が輝いて、冷たい風が吹き込んでくる。前髪を揺らしながら名前は抱えた膝に顎を乗せながら困った様に笑う。
まさか口に出来る筈も無く、暫くは静寂が続いた。

私は一人で良いんだ。
ようやく口に出来た言葉は、薄暗い影の中で静かに木霊する。そんな姿を横目に銀屏は何やら考える素振りをして口を開いた。

「大丈夫っ名前は絶対幸せになれるよ」

決した意気揚々な声に視線で答えると、銀屏は思いの外真面目な表情を浮かべていた。
叶わない恋に絶対的な幸福は訪れるのだろうか。それでも銀屏の言葉は何故か胸を打つ物があり、名前の心を強く叩くようだった。

「名前が行き遅れたらちゃんと面倒見てあげるからっ」

銀屏が突拍子もない話をするのは初めてでは無いが、今回の言葉はとんでもない方向へ向かってしまったように思う。
だが、それが功を成したのか悩んで居る事も沈んだ気持ちも、驚きと共にどこかへ飛んで行ってしまったようだ。こみ上げてくる笑いを吐き出して名前は銀屏の肩に寄り掛かる。

「銀屏は面白いね、真面目に悩んでるのが馬鹿みたい」

「本当?はぁ、良かった…」

叶わなくとも、それはそれで良かったと思えてしまう。何故なら、銀屏とはとても良い友人関係を作れたから。
幼い頃から繰り返し薄暗い空に集まるこの時間だけは、何よりも特別で名前の心を潤してくれる。

ふたりぼっちなの
(名前、これ以上大きくならないでね)
(流石にもう成長止まったよ)


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