烏龍のロマンス
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クロエ様より拝借
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数年前の戦にて、裏切りを企んだ男が居た。その男の起こした謀反により、軍に多大な被害が出た。男はその戦より姿を消し、残されたのは一人娘だけ。母親は病で亡くし、たった一人残った娘は父親の罪を償う為に自らの首を差し出した。まだ戦に出て間もなかった未熟な関索だが、その時の様子は今でも鮮明に覚えて居る。
自分と同じ位の娘は、まだ幼い顔つきながら目の前に武器を持つ無骨な男達の前でも凛とした表情で真っ直ぐ前を向いていた。その曇り一つと無い瞳は悲しみでも怒りでも無く、ただ何の感情も浮かべず瞬きを繰り返していた。

父親のした事とは言え、首を跳ねるなどあまりにも惨いと口にしたのは関索の父、関羽だ。そして娘は光も差さない暗い地下牢へと連れて行かれた。すれ違い様香って来た、名も知らぬ花の甘い香り。鼻腔に張り付いたかのように何年も経った今でも忘れられないで居た。


「髪が伸びたみたいだね…太陽の光を浴びたら、どれ程美しく輝くだろう」

関索は真っ暗な地下牢に唯一の灯火を片手に持ちながら、申し訳無さそうに小さく微笑んだ。
薄暗い地下牢に何年も居る為か、女の瞳は眩しそうに細められて居る。何度も足を運ぼうと思って居たが、罪人の娘と言う訳でなかなか許可が降りなかった。その娘が襲いかかって来る訳でも無いだろうに、随分と時間が掛かったものだ。

関索の言葉に返事は無い。二人を遮る鉄格子がやたら邪魔に思えた。


「君の名前が知りたくて、ずっと気になって居たんだ」

「…………名前、と申します」

力無く呟かれた声は、今にも消え入りそうな程か弱かった。

関索は名前の名前を何度か呟き確認しながら、漸く知れた喜びに微笑んだ。

「君にぴったりの名だね」

片膝を付きながらそう口にした関索を眩しそうに見つめながら、名前は小さくため息を吐いて視線を逸らした。この地下牢に人が来ると言えば、食事を持ってくるか他の罪人を運ぶ時位しか無い。ましてやこんな世間話をしにやって来る人間は一人も居ない。罪人しか居ないのだから当然だ。
久しぶりの会話に違和感を感じながら、名前は関索に背を向ける。

「私は名前にやっと会いに来た…もっと近寄って欲しい」

「私は…罪人ですよ」

皮肉を込めて一言呟けば、背後から切なそうなため息。
記憶を辿り、一度は見た事があると思うがこんな地下牢で会話する程の仲では無いと思って居る。名前は予想さえもしなかったこの状況に混乱していた。何がどうなってこの状況なのか、説明して貰いたい位だ。

やがて錆びた金属音が響くと、眩しい灯火と足音が名前の背後に迫って来る。
驚いて、その音へ振り向くと鉄格子の先に見えていた端正な顔がすぐ近くにあった。

「君は自ら罪を被りここへ来た…私は君を罪人などとは思って居ない」

もう少ししたら、迎えに来る…そして君をこの地下牢から出してあげるよ。
甘く優しい口振りでそう言った関索は、長く伸びた名前の髪に空いた手を伸ばすとそっと唇に寄せる。

いつかの名も知らぬ花の香りがすっと香って来たような気がした。


烏龍のロマンス

(どうしてそんなに優しく笑むの)
(君の香りが忘れられない)


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