報われない君が好き
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告別様より拝借
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側室と言えば聞こえは良いかもしれない、だが実際は数ある内の1人に過ぎない。夢を持ってやって来た者はどれだけ愕然とするだろうか。幸せとは程遠い、女の争いに投げ込まれるだけ。
目を潤ませて空を見上げて居るこの娘、名前もまた同じ。側室として迎えられたは良いが、殆ど呼ばれる事も無く日々女の争いに揉まれる日々を過ごしている。

「早く部屋に戻れ、体調を崩したら孟徳が心配する」

勢い良く振り向いた拍子に我慢の出来なかった涙が幾つも零れ落ちる。綺麗に髪を結い、流れる様な袖が香を匂わせて、名前は確かに美しい娘だった。夏侯惇の胸が密かにざわつく程に。

「心配など…今まで一度もされた事がありません」

「悪かった。ならばいい加減部屋に戻れ」

肩を震わせて、更に悲しみを増した様に感じる。どうしたら名前の心を救う事が出来るのだろうか。心の何処かで、何を言っても理解して貰えないような気がした。
夏侯惇は道を開ける様に隅に体を寄せるが名前が動く事は無かった。体を震わせて、必死に行き場の無い感情を押し殺して居る。

その姿に何度手を伸ばそうと思った事か、腕に閉じ込めようと思った事か。

「辛いのはお前だけじゃない、我慢しろ」

「分かってます、そんな事」

当たり前の言葉なんて聞きたくありません。涙声が呟く言葉は夏侯惇にはとても耐え難いものだった。何があってもそうせざるを得ない立場には、気の利いた言葉など口には出来ない。苦しいのは夏侯惇も同じである。

主君の女に手を出す馬鹿者は居ない、お互い違う立場ならと幻想した事もあった。だが何度寝て覚めても変わる事はなかったし、名前はいつも美しさを涙で濡らしながら小さい体を震わせていた。結局何もしてやれる事が無いのだ。

夏侯惇の手が悔しさに強く握られて居た。

「我が君の為と思って耐えても…辛いのです」

「…辛いのはお前だけじゃ無いと言っただろうっ」

強く発せられた言葉が名前の細い手首を掴んだが、それとは裏腹に壊れ物でも扱う様に優しい温もりに名前は目を丸くする。
見上げた先には、少し悲しそうに目を細める姿があった。


報われない君が好き

(あ…可愛い小鳥)
(俺は部屋に戻れと言ったんだが?)
(少しだけなら良いでしょ?)
(ったく…)


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