蜃気楼に映った嘘
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曖昧ドロシー様より拝借
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女官達の間であの人が好き、この人が好き、なんて話題はとても有り触れて居る。何度も戦に赴く強さに女が憧れるのは道理。だが、名前はそんな輪の中に混ざりながらも己の心の内は決して明かさなかった。話した所でこんな下っ端の女官には遠い話だからである。
黄色い話題に耳を傾けながらも、どこか気は遠い所にあった。

そんな話題なんかより。

「関興様と関索様だわ!」

黄色い声を掻き分けた先に、その二人は居た。捉えられた様に名前の視線は自然とその姿を追い掛けて居る。こんなに遠いのだから、距離が縮まる事はないのだから、せめて見つめるだけでも許されたいと願ってしまう。
関索は笑顔でこちらの輪に手を振って居るが、兄の関興は黙ってこちらを見つめていた。名前はその寡黙な瞳を見つめて、胸を高鳴らせる。

この瞬間がたまらなく名前を幸せな気持ちにさせるのだ。口に出して話すより、幸福感がある。

「名前は関興様が好きなのね」

「っそ、そんな事…そんな事ないよっ」

突然隣から掛けられた声に激しく動揺して、名前は声を震わせながら反論した。全くもって否定にならない言葉に面白がったような視線が突き刺さる。

「いつも見つめてるから分かるよ、名前は隠すの下手ね」

黙っていれば気付かれないと言う考えは、余りにも安易だったようだ。
関索の言葉に吸い込まれ、駆け寄って行く黄色い声。静かになると余計に熱くなるような気がして、名前は俯き様溜息を吐き出した。

「好きな訳ないでしょ…あんなに遠い人」

隣から小さな笑い。
気を落ち着かせて、どんなに冷静を装っても気付かれてしまった事はどうにもならないような気がした。
遠退いた黄色い声を追いかけるように視線を上げると、未だこちらを見つめていた関興に気付く。体がどんどん熱を孕んで行くようだ。しなくても良いのに、隣から肘がこつりこつりと名前に当たった。

これ以上この場所に居たら、名前の気力が持たない。


「私、帰る…もう帰るから」

「え?まだ関興様居るのに…」

目を細めてその姿を見つめると、困った様子と楽し気な様子とで笑われてしまった。
くるりと踵を返して、名前はその場を逃げるように歩き出した。数歩遅れてもう一人が追いかける。

背を向けた事で漸く張り詰めた空気から解放され、体の熱も徐々に落ち着いて行った。


蜃気楼に映った嘘
(行ってしまったな…)
(そうがっかりしないで下さい兄上)
(明日も会えるだろうか)
(会えますよ、絶対に)


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