僕らの心臓は君の舌の上
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水葬様より拝借
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こ、こんにちは。背後から掛けられた声に振り向くと、緊張した面持ちで茶髪の青年が立っていた。
確か孔明殿の所に居る噂の麒麟児だったか。そんな話を姉の月英に聞いた事がある。噂で聞くより優しそうな顔をしていて、魏の将だったのも不思議に思えた。

「噂の麒麟児殿が私なんかに声を掛けて下さるなんて思いませんでした」

袖で口元を隠しながら微笑んで見せると、姜維は頬を染めて狼狽えた様子を見せる。女には縁が無い、或いは戦一本で過ごして来たのだろうか。初心な反応がそこらの男達には無く好感が持てた。
月英の仕事を手伝う事で、随分知り合いも増えたがだらし無い男も近寄るようになった。姉のような幸せに憧れたりするが、だらし無い男と幸せになりたいとは到底思えなかった。

「月英殿の妹君、ですよね…ご挨拶に伺おうと思ってたのですが仕事が忙しく」

申し訳ありません、一言そう口にしながら姜維は俯く。まるで熱い頬を隠したいかのように。

「仕事熱心な方は素敵ですよ、どうか気になさらないで下さい」

みるみる顔を赤く染めて行く様子が見てて飽きない。純粋無垢なんて言葉が似合うのは子供だけだと思っていた。
名前は数歩歩み寄って小首を傾げながら姜維の俯いた顔を覗くと、大層慌てた様子を見せるのでくすくすと笑みが零れる。

「で、では…私は…」

「もう行ってしまうのですか?…やっとお会い出来たのに」

眉を下げて悲しそうに視線を落とす。忙しい人だとは理解していたが、ここで別れるのは勿体無い気がした。どうせなら、もう少しその初心な様子を見ていたい。

「お、お戯れを…」

「姜維殿は…私のような女は嫌いですか」

優しく姜維の袖を摘まむと、その体が大きく震えた。少し言い過ぎてしまっただろうか。気に入った人を見つけるとからかってしまうのは名前の悪い癖だった。


僕らの心臓は君の舌の上

(そ、そのような瞳で…見つめないで下さい)
(じゃあ…嫌いなのですね)
(そんな事、有り得ませんっ)
(まぁ…っ益々素敵)
(!!!)


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