神様の抜け殻
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告別様より拝借
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戦で父親を失ってから、世界はただそこにあるだけなのだと知る。傷心を癒してくれる訳でもなく、ただそこにある。
悲しいのは、苦しいのは、辛いのは私一人だけなのだ。世界は見向きもしない。
でも一人だけ。一人だけ見放さずに居てくれる人が居た。
今日もまた手土産一つ持ちながら、名前の家へとやってくる。

「相変わらずだね…暇なの?」

あぁ、今は。そう口にして慣れた様子で上がってくる男は関興と言って、軍神関羽の次男である。幼い頃は良くお互いの両親が酒を酌み交わす姿を二人で眺めて居たものだ。
幼さに酒は未知な物で、不思議に思っては酒は如何様なものかと話し合った記憶がある。

今は二人、幼さも捨て体も随分と成長した。関興の手土産を受け取る名前は、そんな思い出をぼんやり頭に浮かべた。

「名前、肉まんは嫌いか…?」

「好きだよ?とても」

目元を細めながら笑った顔は、女を匂わせ時の移ろいを感じさせる。一見孤独に生きてるように見えるが、その瞳の奥には曲がらない意思を大切にしまってある。
関興はそんな名前の瞳に強く惹かれていた。

「私も好きだ…肉まん」

「肉まんじゃなくてさ」

早く綺麗な彼女でも見付けて言ってあげなさいよ。
意地悪そうに口角を上げながら見上げてみると、関興にしては珍しく少し驚いた様子で目を丸くして居た。好きだと言われるなら肉まんだって綺麗な彼女の方が相応しいと思うに違いない。

「あぁ、名前は綺麗だ」

「有難う、でも彼女ではないからね」

「?…私は名前が好きだ」

今まで斜め上を走り抜けて行く関興の思考に何とか着いて来たつもりだし、上手く返せるようになったと自負していた。そこは張苞なんかより理解しているつもりだ。
だからと言って、好きと言われて返す言葉なんて早々に出てくる筈がない。名前は息が詰まる思いで視線を逸らした。

世界はただそこにあるだけなのに。見向きもしないのに。二人の視線は交わり、人と人が繋がって行く。何故かはわからない。

はにかみながら静かに手を取り合うと、仄かに感じる熱。脈打つ感覚がまだ見えない何かを掴もうと主張しているようだった。


神様の抜け殻

(に、肉まんを持ったまま言う事じゃないでしょ)
(…なら、今度は花にしよう)


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