小指にはよく似た赤い糸
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曖昧ドロシー様より拝借
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心地の良い日差しの中、小走りで木陰にやって来た関興は辺りを見回すとほっと安堵して腰を下ろした。もう何日こうして同じ時刻、同じ場所に通っているだろう。
それと言うのにも理由があるのだが、関興は誰に聞かれてもそれとなくはぐらかして来た。口にして自分だけの時間が消えてしまう不安があるからだ。

暫くすると、小鳥の囀りに似た鼻歌が風に乗って関興の耳を擽った。
関興は鼻歌のする方へ視線を流すと、やがて薄桃色の衣を羽織った娘が一人二胡を抱えて歩いてくる。風に揺蕩う袖が心地良さそうに鼻歌に踊るようだ。
関興はその様子を微笑ましく思いながら見つめていた。その娘が通り過ぎる僅かな時間が関興の密かな楽しみなのだ。

「…こんにちは、いつもここに居らっしゃいますね」

いつも通り過ぎて行く娘が足を止めてこちらに微笑んでいる。関興ははっとして立ち上がる。だが、突然の事に言葉が出てこない。口を魚のようにぱくぱくさせながら、何とか冷静になろうと頭で考えた。

「鼻歌が…」

心地が良い。
暫くしてやっと出て来た言葉。娘は一瞬目を丸くしたが、その意味を理解したのか恥ずかしそうにはにかんだ様子を見せる。

「私は名前と申します…関興殿、ですよね?お噂は耳にしております」

鼻歌が小鳥のように可愛らしいと思っていた、だが声までもこれほどまでに可愛らしいとは。胸がとても騒がしい。
こんな時弟の関索なら気の利いた言葉を紡ぐ事が出来るのだろうが、生憎関興はそこまで弁が立たない。ただ小さく頷いて見せるだけだ。

「名前…私は今名前を知った、名前の事は殆ど知らない。」

知りたいと、思う。他の事も。
自然と関興の口から零れた言葉は、暖かな日差しの中で優しく響いた。

「また、明日も…会えますか?」

囀る声が少々躊躇いがちに言葉を紡ぐが、その表情は少し嬉しそうで。胸にじわりと広がっていく暖かさに、関興もまた嬉しいのだと気付く。
名前が頬を染めながら細い小指を差し出た。

やがて絡み合う小指。
繰り返す逢瀬の誓い。


小指にはよく似た赤い糸

(よぉ関興っ俺の妹と知り合いだったのか)
(…張苞の、妹?)
(最近修行から帰ったんだ、手…出すなよ)
(すまない張苞、小指を繋いだ)
(小指?…)


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