舐めたい足首
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クロエ様より拝借
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今日、遠方より花が届く。
付近では見かけない色鮮やかな花達だ。これと言うのも婚期を逃さぬよう右往左往してくれた父親のおかげと言うべきだろうか。だが、どうしてこんなにも心が晴れないのか。その理由は理解しているつもりだ。

「物で満たされる人が羨ましい」

何事も綺麗な物、高価な物で済まそうとする男が多い。こうして色々届いても名前が婚儀を結ぼうとする事は無かった。
そこは父親に謝りたい一つでもある。

だが、それで本当に幸せになれるのだろうか?大切なものは鮮やかな花でも無ければ高価な代物でも無い。寂しさと孤独に押し潰される様な思いで名前は瞼を下ろす。
何一つ満たされない問題。

部屋に流れ込んできた風が花の匂いを部屋中に散らすと、逃げるかの如く部屋を飛び出した名前。綺麗に結い上げた髪を解いて、普段から人気の少ない水場へと走った。そこならばこの心も少しは落ち着くのではないだろうか。一人静かに過ごしたい。何もかも振り切って。


「どうした名前、そんなに急いで…喉が渇いているのか?」

水場までやって来ると、そこで関興が顔を洗っていた。幼馴染だと周りに話したりはしないものの、幼い頃よりお互いを知っている。呼吸を整えながら名前は乱れた髪を慌てて手串で直しながら俯いた。

「甘い匂いがする…」

「…贈り物。鮮やかで綺麗だけど、匂いが強いの」

「嬉しそうじゃないな、花なら皆喜ぶだろうに」

視線を落としながら布切れで顔を拭う関興は、名前の纏う甘い香りを確かめるように鼻をすんすんとさせる。

「知って…たんだ」

「今朝…名前の家に向かうのを見た」

部屋に今も飾ってあるだろうその花を思うと、さぞかし目立っていたに違いない。その様子を関興が見ていたとは思わなかったが。
名前の心にずっしりと黒く重い物が落ちてくる。思い出せば尚更重みは増していく。悲しむ横顔は憂いと諦めを纏い、今も苦しいと訴えてくるようだ。

関興は恐る恐る名前の足元に視線を流すと、陽の光に輝く幾つもの粒を目にした。とうとう心の決壊を遂げそれは雨のように止まる事を知らない。

「大切に想うなら…何故名前を悲しませる」

そんな男、名前に相応しくない。
強く、強く、そう思った。
だが関興はその思いを飲み込んで、自身の掌を見つめる。まだこんなにも未熟な掌、父親に守られてきた掌。

沢山の花さえ贈る事が出来ない掌。

あと何度一日を繰り返したら、この手で包んであげられる日がくるだろう。


舐めたい足首

(名前…直ぐに駆けつける)
(っ…どこに?)
(直ぐに、わかる)


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