雷公叫ぶ
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薄紫に灰色の雲が掛かって、今日は何て気味の悪い空だろうと思いながら思わず足を止めてしまった。じっと空を見上げて居ると、隣を歩いていた兼続が数歩先でつられるように足を止める。

「どうした、名前。腹が減ってるのではなかったのか?」

今日は兼続の計らいで夕飯を奢って貰う約束で、面倒事を片付け急いで店に向かっている所だった。だが、薄紫の空に何故か名前の足は重くなる。どうしてなのか、進もうとしてくれないのだ。
あれ程、異様なまでに、薄気味悪い色味の空を見た事があっただろうか?

「……雷公だな」

「何だかとても心許ない色をしている、初めて見たよこんな空」

「日頃の不勉強が祟ったな」

呆れたように笑う兼続を見つめ、名前は身を縮めた。この時期は天気も気紛れ、突然雨が降り出す事も少なくは無い。否、それ以上に今までじっくり空を眺めて来なかった事に何とも言えない感情に苛まれた。

「ただ只管前を向いて戦い続けて来た…空を眺める余裕なんて」

そうだな。兼続は静かに呟いた。そしてゆっくり空の一点を指差すと、遠く地上に伸びる稲光があった。
その様子に目を丸くして名前は関心しながら、その音を聞いている。有難くも遠雷らしく、こちらからは大分離れてるように感じられた。

「直にこちらにもやって来るぞ、帰りは迎えを呼ばねばならぬな」

「二人も居て傘一本、無いんだものね」

「その通りっさぁ行こう」

再び歩き出した兼続の背を追いながら、名前は耳を脅かす雷公の叫びにびくりと肩を揺らした。
兼続の言った通り、音は近づいて来ているようだ。

もたつくような風も吹き始め、いよいよ二人は急ぎ足で店へと向かう。

傘も無く雷公叫ぶ空が泣く歩み進めて逃げろ逃げろと

「おぉ、随分と近付いたもんだ…降り出すぞ」

走り出した兼続の足音が徐々に濡れて行く。足元で跳ねる泥を気にしながらも、名前は見失わないようしっかり前を見つめていた。

雨が二人の姿を濡らして行く。

終幕


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