盈盈一水
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幼い頃からの付き合いが期限付きの関係だったのだと思い知ったのはつい最近だった。己の才を育てそれが認められ、地位を確かな物にして行く陸遜。そして、年相応に成長し女としての将来を切望される名前。
幼い頃は何も考えずただ隣に居る事が出来た筈なのに。

「近いのに、遠いね…陸遜」

しっとりと静かに降り続ける雨を眺めながら、名前は背後に居る姿に声を掛ける。幼い頃は毎日隣にあってそれが当たり前だったと言うのに、いつの間にか会えない日々が増えて行った。
そんな中で漸く会えたと言うのに、全てが遅かったのである。全てが。

「もうじき花嫁になる人が、そんな声を出しちゃいけませんよ」

「それも…知らない人の、ね」

切なさに声を震わせて名前は陸遜をじっと見つめた。幼い頃から花嫁として隣に居たいと願った陸遜は困ったように笑うだけで。その姿が何よりも名前の胸を突き刺す。

真白な頬に涙を流して名前は確かに美しい娘へと成長していた。周りが婚儀を進めたくなるのも分かるような気がするのである。
声の無い悲しみが響いても、二人の距離は縮まらない。ぽっかりと空いた二人の間には繋ぎ止めるものさえ無い。

「陸遜は、良いの?…これで良いのっ?」

「かと言って、どうする事も出来ないでしょう」

冷たく突き付けられた現実に名前の目からは大粒の涙が溢れて行く。もしかしたら、と期待した僅かな気持ちさえも許してはくれない。

切ない姿をただ見つめながら、陸遜は強く手を握って行き場の無い気持ちを押さえ付けて居た。
いつか迎えに行けるよう、そう願って仕事に勤しんで居た日々は無駄だったのだ。どこの誰かも分からない男の所へ名前が行ってしまう。それを止める力も無い。

諦めに苦しいのは陸遜も同じだった。

「昔からあなたの泣き顔には弱いんです」

だから、笑って下さい。そう口にしながら、みるみると心が崩れて行くようだった。今すぐにでも抱き寄せたい。でもそれは自分では無い。思い知る現実と、切ない距離。

連綿の雨 盈盈一水

拭っても、拭っても溢れて行く涙。赤い瞳で陸遜を見つめると、はっとした様にその表情が曇った。

「陸遜の馬鹿…」

「ええ…私は大馬鹿者です」

その瞬間、夢見ていた将来の道がぷつりと切り離された。優しい雨と共に。

静まり返ったその場所で、窓から見える景色と憂いの横顔はもう二度と昔のような笑顔を向けてくれる事は無かった。

終幕


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