苦悩に歪む
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痛みと激しい熱に額が汗で濡れそぼって居るのが分かる。だが体を容易に動かす事の出来ないもどかしさに、足だけが布団から逃げ出して居た。
意識もそこにあるかも分からない程、朦朧として深手を負った後悔が漸く押し寄せて来た。深い傷を負うと言う事はこんなにも苦しいものなのかと。

痛みと熱とが鬩ぎ合い、体は悲鳴を上げてうなされる体にそっと歩み寄る人が居る。
水桶を脇に抱えて、名前の隣に腰を下ろす。

「傷の具合いはどうだ」

「ご覧の、通り…」

低い声に重い瞼を上げると先の戦で共に戦った友の姿がある。それを見てほっと安堵する心に、力ない笑みが零れた。
額の汗を冷たく濡れた布が拭き取って行くと、熱く朦朧とする意識が多少正された様な気持ちになる。

「こんな事なら…打ち捨てられた方が、良かった」

体の自由も効かず激しい痛みと熱でうなされて居ると生きるのが辛いと思ってしまうのは何故だろう。どんな困難も苦難も耐えられたと言うのに。体の不自由さはいとも簡単に心を挫かせる。

「だったら俺等は何故戦う、何故秀吉様の支えとなる」

生きるのが辛いのは、生きてこその感情だ。
額に布を当てながら清正は真面目そうに口にする。それがどこか不自然で名前は目を細めた。
これが今生の別れになると言う訳でも無いと言うのに。清正の言葉は必死に名前を繋ぎとめようとして居る様だった。

「ほら、土産だ…欲しがってただろ」

清正が差し出して来たのは藍色に塗られた風車一つ。そんな事言ってただろうかと考ながら、布団から何とか指先を引き摺り出して指でつまんでみた。
倒れそうになる風車を清正が支えると、風車はくるくると回り始める。

体中を支配する熱で全く気付かなかったが、微かに風が吹き込んで居る様だ。

「その程度で音を上げるなんてお前らしくも無い、生きろ」

生きてこその人生だ。

魘される意識掴んで風車苦悩に歪む心静かに

激しい痛み、朦朧とする熱。時折回る風車。


終幕


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