勇魚取
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折角いつ戦に呼ばれても出れるよう、日々鍛錬を続け女ながら良くやると言われるようになったと言うのに。調子に乗って慶次に稽古を付けて貰ったらこの様である。
手加減して貰っても、明らかな力の差に抗えないのだと身体中の痣を見て思い知る。
だが、武士としての誇りだけはどれ程身体を痛めても折れない物だ。

「名前みたいな小さい体は戦向きとは思えないねぇ」

そんな事、言われなくても理解している。体が小さければ鍛錬した所で差は生まれるし、馬力も出ない為長続きしない。だからこそ、手の皮が擦り切れようと豆が潰れようと痛みを堪えて継続して来たつもりだ。
歴戦の猛者の目にどう映ろうと、意思は揺らいだりしない。
真っ青に腫れた膝を摩りながら名前は居心地悪そうに溜息を零す。

「私も男ならばと、何度も思ったよ」

でも私は刀を握って居る。平和な世の為命を削って居る。それは、他の武士とどう違う。
そう口にすると慶次は意外そうに笑みを浮かべた。
額から流れる汗を拭い、痛む体に鞭打つように勢い付けて立ち上がると今度は慶次が腰を下ろす。

「お前さんの鍛錬に協力する事も吝かじゃないがね」

体が小さければそれだけ負担も増えるってもんさ。ましてや女なら、尚更じゃ無いかね。無骨な男と違って女は繊細だ。
言い聞かせるようにゆったりと言葉を紡いだ慶次は、名前を真剣な面持ちで見上げた。

頭が瞬時に沸騰したかのように、熱くなる。手を伸ばしても、努力を重ねても、それはまるで届かないと言われたような気がして。悲しみに似た怒りで、名前は慶次に刀を向ける。

「ここで音を上げるようなら、戦場に出向こうと思ったりはしない」

「戦場で死ぬ事も、覚悟の上って事かい…良いじゃねぇか」

お前さん、良い目をしてる。
立ち上がる慶次を見上げて、その大きさに思わず後退りした。太陽を背にしてこちらを見据える瞳は、正しく戦いを知る者の瞳だった。


耐え忍び痛苦堪えて勇魚取歴戦の目に狂い無し

何も考えられない内に名前の体は地面に叩きつけられて居た。痛みが体中に脈打ち呼吸が乱れる。先程の稽古の時とは全然違う力をその身に受けた名前は小さく震えながら体を起こす。そして今一度刀を強く握り、己の信じる道に向かって大きく振りかぶった。

終幕


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