厭世に傘
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幾日も前、関ヶ原にて豊臣と徳川勢が衝突した。その知らせが届いてから、空が悲しそうに涙を落としていた。
零れ落ちて行く数多の命の様に。

「みんな、行ってしまったね…三成も、清正も正則も…みんな」

悲しそうに吐き出された言葉は、苦しみを孕んで悲鳴さえ押し殺しているようだ。伏せた横顔は雨と憂に重なって、全てに絶望し怯えている。静寂に包まれた部屋で、名前は抗えない現実を膝の上で強く握り締め悲しみが溢れない様瞼に閉じ込めた。

寂然に降り続ける雨は悲しみの知らせ。薄曇りの心に冷たく打ち付けて来る現実。
ねねは息を震わせながら、小さな掌で顔を覆う。

「私の可愛い子達に…もう会えないっ」

震えた涙声が部屋に木霊す。失意の底に落ちて行く声が、名前の鼓膜を煩く叩いた。瞼を開くと床に崩れて小さくなったねねの背中が震えている。堪らず膝で畳を擦りねねの傍に身を置くと、涙で濡れた手が名前の手を強く握り締めた。

「私はおねね様のお側を離れません…安心して下さい」

斬り裂いて所縁失くして濡れ濡れと厭世に傘母に子を

「あたしはもう、誰も失いたくないよ…」

怨みの様な、怒りの様な。
紛糾した感情を零しながらねねは静かに名前の膝に顔を寄せる。行き場の無かった片方の手で、頭を撫でると再び悲しみが耳に届いた。

「おねね様…おねね様の悲しみは私が全部受け止めます」

「名前ちゃん…」

涙声が痛々しくて、瞬きを何度かすると我慢の出来なかった涙が二粒だけ名前の頬を流れて行った。空は未だ泣き止まず、しおらしく降り続いて居た。

雨には傘を、涙には温もりを。
魂には救済を。


終幕


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