「私の母親も、昔は私みたいに、カントー地方のどうろに立っていたそうです。相棒のペルシアンと共に、『主人公様』をずっと待ち続けた。そして、待ちに待ったその日が来て、母のペルシアンは『主人公様』にボコボコにされました。
それから母は、その生活に嫌気が差し……二度と公にバトルが出来なくても良いから、リーグなんかにいけなくても良いから、この職業を辞めさせてくれ、そう言ったそうです。
母は『エリートトレーナー』をクビになりました。
シンオウに渡った母は父と出会い、そしてナギサで私が生まれた。
私は母の思い出話を聞くたびに、ポケモンという存在にひどく憧れて……母の言葉を聞き入れずナギサでポケモンを育てました。それで、母の忠告を聞かなかったバチが当たったんでしょうね。トレーナーになってポケモンを持ち闘うのは職業です。3年前、通知が届きました。
ここで、『ピクニックガール』となって暮らせ__と」
「それで……ホウエンに?」
「もう、大分慣れました。ここは、素敵なところですね。長閑で、静かで。私の故郷とは、全然違う。……私は、今はもう、母の忠告の意味を知っています。私が例えどんなに強くなっても、ジムリーダーにはなれない。四天王に挑戦することは出来ない。母には分かっていたんです。母が、そうであったように、私も神様に選ばれなかった」
「……シズカちゃん。つまり君は……ポケモントレーナーを目指しただけで、ただそれだけで、この場所に縛られているのかい?」
「そういう、ことですね、」
シズカの目には、昔思い描いたあの夢はもう映らない。
自分の運命を諦めた少女。
この世界が作り上げた、産物。
ダイゴは生まれて初めて、それに触れた。自分が知らなかったこの世界の負の真実。__知らなくても、良かったこと。それを、彼が気まぐれで、ポケモンリーグを飛び出し、散歩したばかりに、彼は知ってしまった。
そして、救いたいと思ってしまった。
もう、モーターは止められない
「シズカちゃん」
ダイゴは、立派に育て上げられたエアームドを、ボールから出した。ボールの中が窮屈だったのか、エアームドはその鋼の翼をギシギシと震わせ、大きく広げた。
「……このエアームドに乗れば、ナギサシティに行ける」
彼の決意は、もう揺るがない。
それが、どんな結果を導いてしまうのかも知らずに。
「上に、僕が話を通す」
「だから君は……もっと旅をして強くなるべきだ。もっと自由に過ごすべきだ。『ピクニックガール』をやめて」
( 運命のねじれ )( 20120702 )