ポケモンセンターに着き、ボールをジョーイに預けたシズカは、トイレに行き洗面台で顔を洗った。彼女の目は少しだけ赤くなっていたが、そこまであからさまな涙の跡は残っておらず、ほっと息を吐く。
「お預かりいたしましたポケモンたちはすっかり元気になりましたよ!」
「有難う御座います、」
「またのご利用をお待ちしています」
二つのボールを受け取ると、シズカは機械的に笑うジョーイに一礼し、それからキョロキョロと周りを見渡して、パソコンの前に立った。
パソコンは、トレーナーカードを読み込ませれば使うことが出来る。つまり、ポケモントレーナーになれば使えるのだが、一介のピクニックガールである彼女含め、『主人公様』以外はあまり使うべきではないとされている。禁じられているわけではないが、暗黙の了解のようなものだ。シズカも、年に何度か実家とのメールを交わす程度に留めていた。
久しぶりに開いたメール画面で、『新着』という文字が光っている。その送り主は、シズカにとってなによりも大切な人物であり、彼女にポケモンを教えた、その人だった。ナギサから旅立つ日、IDを書き留めた紙を彼に手渡したのだが、メールが来ることはいつまでもなかった。それは彼が忙しかったのかもしれないし、はたまた自分のことだなんてすっかり忘れてあそこの生活に励んでいるのかもしれない、とシズカは思っていた。だが、そこには確かに、彼の名前がある。シズカにとって、思わぬ嬉しい出来事だった。アイコンをクリックし、あまりにも彼らしいぶっきらぼうな短い文面に少しだけ笑って、シズカは返事を打ち始めた。
軽い電子音が鳴る。
メールが届いた合図だった。その送り主を見て、彼は溜息を吐いた。長いこと返事がなかったために、どこかでへたっているのではないかと、彼は少しだけ心配をしていた。彼という人物に心配をされるのは、幼馴染という存在である彼女だけの特権だった。
彼の横で携帯ゲームを楽しんでいた彼の親友は、いつにない優しい表情で画面を見つめている彼に気づき、ただごとではない状況を察知する。いつだってローテンションで冷たい彼が、こんなにも優しく笑うところを、初めて見たからだった。
「……なにジロジロ見てんだ気持ち悪ぃ」
相変わらずの冷たい物言いにも、既に慣れている。めげずに、彼はこみ上げる笑いを隠し切れず笑いながらこう聞いた。
「どうしたんだ。何か良いメールでも届いたのか? ていうか、お前俺以外にメールする友達いたの?」
「うるせぇ。黙れ。死ね」
「ひどっ! 死ねはひどいって! おい!」
From シズカ
Title RE;
お久しぶりです。
まさか貴方からメッセージが届くだなんて思わなくて、
びっくりしちゃいました。
お返事が遅くなってしまってゴメンなさい。
もう三年も経つんですね。
ホウエンは良い人たちが沢山居ます。
私はやまおとこさんやミニスカートさんと
仲良くなりました。不自由ですが楽しいです。
けれど、あの頃が懐かしいです。
いつ出張が終わって戻れるのかは分からないけれど、
早くナギサに帰って、デンジさんにあいたいです。
シズカ
( その罪は甘く重い )( 20120701 )